第65話

「————ちちんぷいぷい・・・」



冴島が急に幼稚な呪文を唱えた


その途端、真っ暗だった暗闇に人工的な光が灯る。


透明なプラスチックのおもちゃのうちわは花火柄。


その絵の線に沿って、赤、紫、青色の三色の光。


それがぼわーっと蛍みたいにゆっくり点灯を繰り返しながら私たちを照らす。




「あ、ついた。冴島のはダイジョブなんだね」


「呪文を唱えたらそっちも光るよ」


「ウッソだあ」


「本当だって、ほら、言ってみな?」



恥ずかしいけど頑張って唱えてみる。



【・・・ちちんぷいぷい】



そうしたら本当に光りだしてびっくりしている私に、顔をよく見るためなのか、ゆっくりと点滅するうちわを私にかざした。


下からも上からもうちわが同じパターンで光っている。


そうすることで私も冴島の表情がよく見えるようになった。


奴の表情を見れば口は笑ってるけど目が真剣で…



『さっきの―――ふざけんなよ?』


そうやって責められた気持ちになってしまう。



そのうち夜空にある月光が、雲の厚みから少しずつ解放されて、シルエットが鮮明になってくる。

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