第63話

昼間の跡が残ってるところに静かに腰をおろせば、またムギュって音が鳴って、椅子に丁度いい高さの雪の塊ができた。


周りは暗いし、風に揺られる葉のない木は風切り音を出していた。


それがより一層心もと無さを倍増させるけど、まだつながれている手があるから寂しくない。


と、おもったけど、離されたと思ったらぷしゅって音がして手渡された缶。


ふわっとピーチの香りがした。



「ありがとう」


「うっし、温まろうぜ―――乾杯」


――――これも自然災害の成り行きということにしておこう。


「うん、・・・じゃあ————乾杯」




躊躇いながらも、私が手袋を取らなくてもいいようにと、プルタブを開けてくれたそれを口に寄せ、思い切ってごくごくと呑んでみた。



キンキンに冷えた炭酸が口の中ではじけて、ピーチの甘い風味が喉の奥に香りを残していく。


「————美味しい・・」


「だろ?」


「うん、本当にジュースみたい!」


「酒呑んだの初めて?」


「うん、これが人生初めてのお酒」


「ふはっ、良かったな」



あ、私も目が慣れてきた。


柔らかく笑ってる表情が見える。



――――いつか、彼女の横で演じていたそれとは少し違って、自然に微笑んでいるような―――そんな顔。



いろいろ落ち込むこともあるけど、やっぱりそんなものを全て帳消しにしてしまう笑顔。



わたしはやっぱりこいつに堕ちてるんだなって自覚する。



嬉しことでもあるけど、同じくらい絶望に似た感情も心の隅にある。



今は一緒に居るから心の隅にあるけど、一人きりになったらこれが何倍も大きくなって私を弱気にさせてしまうんだ。



毎回毎回、同じことを繰り返しては一喜一憂を繰り返す私は、学習能力がないって分かってる。



でも、初めての恋に戸惑っている私は、どうすることも出来なかった。



恋する気持ちを隠すことは出来ても、止めることなんて出来やしない。



だから今は—――この旅行中くらいこんな自分でいい。


あとで、いっぱい後悔することがあっても、私は今の幸せを優先したい。

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