第60話

"サエジマアヤトはひとのもの”


自分の頭に認識されていく。


こいつには彼女がいて、その子のことしか頭にない。


わたしはあくまでその愚痴り役にすぎない。




冴島彩人はひとのもの。



でも、私は誰のものじゃない。




――――私も


―――――誰かのものになりたい―――



そうすれば、ここにぽっかりと空いてしまった穴が埋まるかもしれない。



どうしようもなく悲しくて、苦しくて・・・。


情けない自分に幻滅することもなければ、唇を咬んで涙を我慢することもない。



まわりの歓声が幸せそうで、より辛くなる。


こんなところで涙ぐむなんて、きっと私以外にいないだろう。


周りには当たり前のように恋人がいたり、家族や子供がいたり。


みんながそれぞれの愛の対象に向かって柔らかい表情をしていた。



その表情を向け合うことがない私たちは、ただ目の前の演出に見入るだけ。


わたしは冴島の背中しか見ていなかった。



♪~

おおー凄いね~

やーみてみて、綺麗だよ

わー、すごーい!



みんな笑顔の仮面をつけているみたいに同じ顔。


わたしも、あんな風に笑えたらな。




―――わたしも、誰かのものになりたい。



再びそう思った時、頭の中に思い浮かんだのは



河内谷君の笑った顔だった。

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