第59話

「寒い」


そう言ってフードを深くかぶり直しては悔しくて切ない心を鎮めようと唇を咬む。



こうやって私の感情をいつもかき乱してくるんだ、冴島こいつは。


本当にあんたって人は………罪な男だね。



ライトアップされているだけでも十分に幻想的でロマンチックなのに、それに映像を重ねるとさらに美しくなる。


「おっほ、すっげーな!」


斜め前にいってしまった男は、そんな演出に大きな声を上げて感動していた。


わたしが付いてないのも気づかずにグイグイと進んでいく。



素直な感情に触れられて嬉しく思う反面、ここに居るのが彼女だったらって想像してしまう。


きっと今みたいに、子供っぽく声をあげたりはしゃぐことなんてないんだろう。


一番カッコいい顔でも作って、愛しの彼女を労わったり抱きしめたりしながらクールに見てるんだろうな。



いつかのように腕に抱き着いてはしゃいでる彼女の残像があいつの隣で見えるような気がした。

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