第34話

「わたし、行かないよ」


「・・・へえ、どうすんの?家に帰れねえだろ?」


「・・・どこかに泊めてもらうもん」


「誰さんのところ?————まさか〖河内谷朔〗とかいう奴のとこじゃねーよな?」



一瞬考えていた。


河内谷くん伝いに、沙耶さんに連絡してもらえないかなって。



「あいつ、お前の周りちょろちょろしてるみたいだけど、知ってんの?かなり遊んでるよ?」


「べつに、いいじゃん。ただ遊んでるだけだもん」


「———…遊ぶってのはそういうことじゃなくてだな…。って、説明しても無駄か」



中々動かない私の代わりに荷物を預けてしまう冴島は、この数日間の無視は何だったのだろうかと疑いたくなるほど普通だった。




どうしようかと迷っても、帰る場所もお金もない私はついて行くしかない。



ききたい事ならいっぱいある。



彼女と行くんじゃなかったの?

どこに行くの?

いつから計画してたの?


私が言ったことに、怒ったんじゃなかったの?



聞けずにいれば、隣の冴島は飛行機の中から見える大きな山に歓喜の声を上げていた。



「でっけ―山」


「本当だ、なんて山?」


「しらね。雪スゲーな。寒そう」


「本当だ…。ってかさ、冬の旅行なのになんで北海道?普通沖縄とかじゃないの?」


「イヤー俺暑いの苦手だし。それにさ、あれやってみたくない?積もった雪にバフンって倒れるやつ。痛くねーんだってよ」


「あ~~~!やってみたい!楽しそう!」




私の頭の中はとても単純で



ついこの間までこいつに抱いていた嫌悪感はすでになくなっていた。


違う環境にいたのもあって、こいつの側はいかに心地よかったかって思い知ったし。


人間は忘れてしまう生き物だから、大事なことはキチンと頭のノートにメモしとかないと忘れてしまう。



”言動、発言に少し苛つきあり”


”でも、こいつと居ると無条件に楽しい”


”最高の〖友達〗である”



今はまだ覚えているけど、時間が経つと忘れるんだろうな。

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