第33話

「もう、さっきから何言ってるの。彩人君と旅行に行くでしょ?」


「——————は⁉……何言ってるの?」


「何って・・・。もうお金渡したけど?聞いてなかったの?」


「聞いてないよ」



もしかして、あの時の話ってこの事?


え?なんで?


じゃああいつ、本気で休んでどこか行こうとしてたの?


それも、彼女じゃなくてなんで私?



あ、お金ってこの間の好きにパーっと使えって言ってたやつ?



何が起こってるかわからないし、冴島がお金をどうしたかも知りたくない。


ママは”彩人君”を信じて疑ってないみたいだし、ここは内密にやり過ごそうと思ってた私に、とどめのような一言が放たれた。



「あれぇ?内緒だったのかなぁ?―――でもね、その間ママの従妹の”幸恵”ちゃん居たでしょ?旅行で広島から子供と旦那さんを連れてここに来ることになってね。だからここを使ってって話しちゃったのよ」



幸恵ちゃんは子供が4人いる大世帯だ。


この狭いアパートに7人寝ることはできない・・・。


ここは引き渡さないといけないみたいだ。


冴島は—―――来ないと思う。


だから、他に滞在先を考えないと・・・・



なんて思ってたのに、朝一で現れてパニックってる現在に繋がる。


ってかママ?


娘を年頃の男と一緒に旅行に行かせるとか、どういう事?


そういう心配はないわけ?



電車の中、私はそんなようなことで頭がいっぱいだった。



空港に着いて何食わぬ顔をして荷物を預けていた冴島は、ボーっと突っ立てる私を不審そうに見ていた。

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