第29話

「————ヒステリック女」


怒ったように顔を強張らせた冴島は、振り返ることなく靴を履き替え帰って行った。



私は、都合のいい止まり木のはずだった。


都合のいい時にでも、呼んでくれるのが嬉しくて


でもそんな心情を隠しながら二人きり、人気のないところで会うのが楽しみだったはずなのに…。




手に入らないって分かる男を想い続けるのは辛い。



ましてや、それで何かを犠牲にしたり、軽い無視をされるのも耐えられなくなってきた。



いや、違うか・・・



私は嫉妬してるんだ。


いつかの店で目撃してしまった残像がいまでも頭に残ってる。



彼女と幸せそうにしていた冴島は、見たことないくらい男前でカッコよかった。



私の前ではだらしなくふにゃーって笑ってコタツみかんしてるくせに。



その使い分けは”お前には一ミリも興味ないから”って言われてるようだった。

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