第14話
”あ—――わりぃ、知らんかった”
”そっか、ごめんな、もう会うの辞めるか”
”おれ彼女いるよ?”
傷つく言葉しか思い浮かばない。
いつだってマイナス思考のままだ。
ジャケやタイトルに魅かれて何冊か手にとっては立ち読みしていた。
有名漫画家の自伝話を面白おかしくコメディにしている本を読んでいる時だった。
「何ここぉ?ねえ、彩人くんさっきのお店に戻ろうよ」
「ちょっとだけ、買いたい本があるんだ」
「えー、なになに――」
冴島だ。
声だけで分った。
何となく気配を感じて、避けるように棚の奥に隠れる。
ごちゃごちゃしている店内は、いっぱい隠れ場所があるから助かった。
「あー、これこれ」
「えー―?なにこれ」
「友達へのプレゼント。」
「彩人くん友達居ないんじゃなかったの?」
「うん、そうなんだけど、唯一いるの。そいつが好きな作家だからさ」
冴島はそう言って私が読んでいた本と同じものを手に取って、レジに向かっていった。
スチールラックの隙間から、冴島の腕に寄り添ってる女が見えた。
その綺麗な女を優しい目で見ている冴島の表情も。
嫉妬心がふつふつと自分の奥底から湧いて、怒りに支配されそう。
けど、誰の目から見たって隣にいる彼女は、大人っぽくて綺麗だった。
自分が太刀打ちなんか出来るような相手じゃない。
そう自覚したら気持ちに線が引かれたように怒りが収まってくる。
冴島はあの
もうとっくにいなくなったレジを少しだけ見つめて、嫌に冷静になった私は、無心で足を進め家路に向かっていった。
人間ショックなことがあっても、家に帰るって本能は機能するみたいだ。
お母さんは朝にならないと帰ってこない。
鍵をあけて、一人きりの空間に閉じこもった時。
我慢していた涙が頬を伝っていく。
出てくる涙を抑えることは出来なくて、声を押し殺しながら泣きじゃくっていた。
やっぱり、こんな時期の夜に、一人で行くんじゃなかったと後悔していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます