希死念慮は猫の目

御涼東

希死念慮は猫の目

夜の11時半、ベットに寝そべったら涙が出てきた。



今日は水曜日だった。昨日と一昨日と同じように、頑張って朝起きて学校に行った。

最近は朝ごはんもちゃんと食べれてるし、お通じだってしっかりあった。

でも身体が健康だと学校休めないから困る。

絶対明日、目腫れちゃうよ…。正直疲れたし、学校行きたくないな…。


特に今日嫌な出来事があった訳じゃないし、体調が悪い訳でもないのに泣いてしまった。

でも私にとって珍しいことじゃない、むしろよくある事だ。でも煩わしいことであるのは間違いない。


この涙はいつも「死にたい」って気持ちと共にやってくる。希死観念とか希死念慮とか言うやつだ。でもなんで死にたくなるのかは説明できなかった。思い当たる節はいっぱいあるから、逆にありすぎて言葉に出来ないのかもしれない。


周りが勉強頑張ってるのに私だけ本気になれてないとか、私はレベル高い大学に興味ないのに皆そっち目指してる感じがして疎外感があるとか、志望校の入試早くて怖いとか、私だけ大学の偏差値低くて友達やめられたらどうしようとか、プレッシャーも何も無いのにこんな悩み抱えて誰かに怒られそうだなとか、限界で誰かに相談したとして正論ぶっぱなされたらどうしようとか……………。

とにかく今は人生が不安で仕方ない。


でも寝て朝になったら、希死念慮もすっかりなくなってしまう。


いつもそうだ。寝て起きたら、そんな気持ちすっかり消えてて腫れた目だけが残る。親に休みたいって伝えることがだるくなる。だって一言目に「は?」って言われるんだもん。私の妹にはそんな反応しないのに。学校行くことよりそっちの方が嫌になってしまう。


毎回呆れてる。あんなにうじうじぐすぐすしてた夜が嘘みたいだから。死にたい死にたいって大層なこと思ってるくせに、すぐ心変わりする自分が嫌だった。


もちろん希死念慮に悩まされてる人に比べたら、私の苦しみはちっぽけなものだ。むしろ本当に苦しんでる人に失礼なほど贅沢な悩みだろう。


それでも、いっそ何かの病気であってくれと願うほど自分の性格が嫌いだ。こんなのは私じゃないと、病気のせいだと人から否定して欲しかった。


虚しいよ…………。


考えれば考えるほど涙が溢れてくる。くそー明日皆に腫れた顔を晒すくらいなら死んでやる。


でも死ぬのって結構だるい。

死にたいけどやっぱ死にたくない。


人が死んだ後って手続きとか大変そう。終活って言葉があるくらいだもん。死ぬ準備してないのに急に死なれたらみんなに迷惑かな。


あと単純に痛いの嫌いだ私。


………最近の世間の目は、自殺を考えてしまう人に全然優しくない。てか、悩んでる人にぜんっぜん優しくない!!


悩んでる人に一体何があって、どれくらいの心の余裕があるかを考慮しないで、偏見で他人を貶すやつが多すぎるんだ!


人の苦しみを完全に理解できなくとも、理解しようとする姿勢が大事だと思うのにどうしてそれをサボるんだろう…。


人は大事なことをサボりがちだよね…。

あーーなんか冷静になってきた………


…………私も自分と向き合えてない。サボりまくってる……。


あー〜!!やっぱり死にてぇーーー!!!

ちくしょーーーー!!!!



……………。



お気に入りのクッションを抱きしめて、ベットの上をゴロゴロと暴れ散らかしたら、涙に濡れたせいで生じた首の痒みに気がついた。

びしょびしょになった顔面をティッシュで拭いて、ついでに枕も拭っておく。

「………はぁ」

溜息をついて気持ちを落ち着かせた。時計を見たら0時をちょっと過ぎていた。

今日の朝はさぞかし酷い顔になっていることだろう。

「………」

暗い部屋で目を凝らして壁掛けのカレンダーを見た。薄らとしか文字が見えないが、日付くらいは読めた。

「…生理近いな」

もし学校に行くならば、ナプキンを忘れないように持っていこう。


……生理やだな。もっとこう、髪の毛の色が明るくなるとかだったら良かったのに。


全部生理のせいにしてもいいけど、それを許してくれる世間様でもないからな。けっ。


……………。



お気に入りの猫のぬいぐるみがこっちを見ていた。可愛い。

「………女心は猫の目」

ふと最近耳にした言葉を思い出した。本かテレビで見た言葉だった。あまり良い意味ではなかった気がする。

女の心は、明るいところと暗いところで変化する猫の目のように変わりやすい。確かそんな意味だ。

「別に女の人に限らず、人の心は変わりやすいものだと思うけどね…」

でも字面だけ見たら可愛いと思った。女の子の心の中に、猫が住んでるみたい。

私の心の中に猫が住んでる想像をしたら、ちょっと嬉しくなった。

「ふあぁ……」

夜も遅いのでさすがに眠かった。希死念慮に苛まれても、眠さには負ける。

クッションを猫のぬいぐるみに持ち替えて目を閉じる。ここ最近通学路に野良猫が出没するので、もし学校に行くことになったら今日も拝ませてもらおう。

「……猫ちゃんは…裏切らない……」


今日くらいは、もふもふの猫ちゃんに囲まれる夢が見れますように。

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