中年アリスの苦悩

 次の日もポッポさんは22時前頃に買い物に来た。

 トイレ掃除を終えてレジの様子を見に行った時に、ポッポさんがコンビニから出ていく所をちょうど発見。レジも少なく配送業者さんが来る様子もない。


 安心してスマホを渡そうとコンビニの出入口に向かって踏み出した時、通路から急に飛び出してきた大学生くらいの若い男とぶつかってしまった。


 大学生風男は、コイツに背中を押されたんですと背後を指さしたが、そこには誰もいない。


「ほ、他のお客さんもいるので、注意して歩くように、お願いします」


 若い男というだけで苛ついた僕は、尖った口調で大学生風男を注意したが、


「月乃、お前のせいで店員さんにぶつかっちゃっただろ。大体、お前はいつも暴力的なんだよ。もっと女子高生らしく淑やかに……」


 なおも1人コントで煙に巻こうとする大学生風男に強い口調で言い返してやろうと思ったが時間がもったいないと思い、レジの出入口に向き直った。しかし、引き留めるように再び声がかかる。


「あのう、これ、ぶつかっちゃったときに落としちゃったんですけど、弁償しないとダメっすかね?」


 エヘヘヘと自虐的な笑みで差し出されたのは、誤って落として踏んでしまったのであろう、ひしゃげたポッキーだった。時間がないのでグエン君に対応してもらおうと思ったが、イレギュラー案件を彼に処理してもらうのは無理だろう。


 確かこういう時はどう対応すればいいんだったか。

 店長に電話で聞こうか…………あぁ、もう!!


「僕が買い取るので結構です!!」


 僕の感情の爆発に対して大学生風男はそこにはいない誰かを守るように腕を後ろにかざしながら、すいませーんと平謝りをする。


 だからそのおかしな一人芝居はもういいって!!


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 次の日、落ち着いた店内でレジ打ちをしながら、22時に迫る時計の針を見てそろそろポッポさんが来るかなとぼんやり考えていた。大学生風男も配送業者も来ない。今日は大丈夫だろう。


 来店客を告げるアラームが鳴り、ひとりのおじさん客が入ってきた。そしてちょうどその時、レジ前を一匹の鼠が駆け抜けていくのを視界の端で捉えた。鼠にとっては不幸かな、タイミング悪く、おじさんの踏み出す足に鼠が踏みつぶされてしまい、パキッという骨の折れる音が響いた。


 踏みつぶされた鼠は痙攣したのちに息絶えてしまったように動かなくなったが、店内の床が特別汚れたこともなく、早々に死骸の掃除をしようと思った。


 が、しかし。

 目の前にいる、目つきの悪い高校生っぽい男子が、死骸となり果てた鼠を見て恐怖に目を歪ませる。こみ上げてくるものを抑えるように口元を抑えたが、せき止めることができず、床に吐瀉物を撒き散らせた。


 店内の惨状を見て、店の入口手前まで来た誰かが引き返していく若い女性の後ろ姿を見て、僕は肩を大きく落とした。


……………………神様、悪戯にしては悪質すぎませんか。


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