第29話 美幸《ミユキ》・バーランダーVs.特Sの4人

 セリーグ王妃専用離宮に暮らして1週間。

 瑞穂王国バーランダー公爵の第1夫人と娘。


 美幸ミユキ

「いよいよね特別Sクラスとの模擬戦闘、どれくらい強いのか楽しみだわ。」


 撫子ナデシコ・バーランダー公爵夫人

「美幸、特Sなんて化物よ。もし負けても気にすることないからね。」


「お母様、最初から全力でぶつかります。それで駄目なら諦めもつくし。」


「そうね、思う存分やりなさい。」


 **********


 ドーム学園演習場 11時


 オリビア・バターズ先生

「みんな、模擬戦用の武器は選んだかな?」


「「「はい大丈夫です。」」」


 ミーナは木剣、ビューラー木斧、モモ弓矢(木)


「タイセーは木剣持たないのかい?」


「ああ、俺は格闘術もいけるし相手も素手だからな。」


 相手と言われた美幸は柔術専門なので、左右に防御用ガントレットを装着している。


 先生

「瑞穂の美幸。事前説明通り防具としてのみ自前のガントレットを認める。それで打撃は無しだぞ。」


「承知しております。防御後は柔術に持ち込みますので。」


「そうか、理解しているならいい。水魔法が得意らしいが、今日は武術の模擬戦なので魔法は禁止。身体強化のみ許可とする。ミーナのスラシュも禁止だぞ。」


「はい分かっております。では私から参ります。」


「そうか始めるぞ、特Sの1番手ミーナ対美幸。始め!」


「「お願いします!」」


 互いに礼をして構え、ミーナが中段から鋭く切り込んだ。


 バシィ

「グッ、速いそして重い!」


 ミーナ先制攻撃の面打ち。

 ガントレット左肘で受け流し、そのまま右手で首を狙うはずだった美幸だが、流したはずの左肘が痺れて動かせなくなった。


 タイセー

「ほお~ミーナの高速面打ちに反応できるとは、やるな。」


 初手を受けられたミーナだが、切り返しの右横なぎ払いからの、左下逆袈裟斬りと連続攻撃を仕掛ける。


 ヒュン・ガキィン


 美幸は横なぎを屈んで避け、逆袈裟を右手ガントレットで上方向へ弾き返す。

 一瞬ミーナの脇腹が空いたので右ミドルキックを叩き込んだ。


「ぐはっ」

 体を回転させ衝撃を逃がしダメージを最低限にするミーナ


 だが次の瞬間、美幸の右手がミーナ左脚に巻き付き足首関節をキメに入る

「もらった」


 捕まえさえすれば柔術で相手を締め上げる美幸だが、ミーナの激しい攻撃で左肘の痺れがまだ取れず、右手1本の締めになったところをミーナの突きに狙われた。


「まずい!」


 せっかく取った左足首を離し、右横5mに跳び距離を取る美幸。

 目標を失ったミーナの突きが地面に刺さり穴があく。


 お互いに再度構え向き合ったところで

「そこまで!」と先生の声が響く。


 美幸「まだこれからです。」

 ミーナ「始まったばかりですが先生。」


 先生「美幸の左肘軽度の亀裂骨折。ミーナ左肋骨2本折れてる。こっちに来なさい、今すぐ回復しましょう。早ければ早いだけすぐに完治するから。」


 高レベルの回復魔法も習得している、特Sランク卒業生のバターズ先生。

 2人の骨折を瞬時に癒す。


 タイセー

「2人とも流石のスピードだな。それに狙いもピンポイントで正確だ。先生が止めたのは、これ以上続けると相討ちで深傷を負うからだろう。」


 先生「そうだ、まだ嫁入り前の娘達だからな。この勝負引き分けだ。お互いに礼!」


「「ありがとうございました」」


「次はモモだが、彼女の場合武術は弓になる。当然前衛の守りがあるか、遠距離の隠れた場所からの狙撃で活きてくる武器。模擬戦のようなオープンな場所での一騎討ちではフェアではない。それで美幸にはモモのバフとデバフを受けてもらい、彼女の支援魔法がどれだけのレベルか体験してもらおう。」


「支援魔法なら瑞穂宮廷魔道師で何度か体験しています。モモさんのレベルとの比較もできますね。」


「そうか、なら話しが早い。モモまずはバフをかけてくれ。」


「分かりました先生。では美幸さん行きますね。」


 ヒュン!無詠唱でモモのバフが美幸を包み込んだ。


「宜しくおねが……えっ!無詠唱!うわ!きたこれ何!!」


 モモの強烈なバフに、今まで味わった事の無いパワーが内から湧いてくる美幸。


「先生!!何かこのパワーをぶつける的はありませんか!!」


 身体中にほとばしるパワーを、今すぐぶつけたい衝動に駆られている美幸。


「分かった的なら今すぐ鉄柱を出そう。」

 その先生の言葉を遮るタイセー


「いや、鉄柱はいい。俺が相手になる。」


 モモのバフを受け、普段の2倍増しの力と速度を得ている美幸。

 タイセーは素手でふらっと自然体に構える


 タイセー

「何時でもいいぞ」


 美幸

「怪我させたらごめんね!!」


 圧倒的なスピードで両肩を捕らえ後方に崩した瞬間、右足で鋭い小内刈りをかけタイセーの身体を完全に押し倒した美幸。

『特Sもこの程度なのね!』と思ったその瞬間


 背中が地面に叩きつけられる寸前、美幸もろとも両足踵で後方に素早く跳ぶタイセー。


「素晴らしい足技だ、相当高い柔術レベルだな。」


 空中で体を回転させるともえ投げが決まり美幸を下に叩きつける。

 誰もがこれで決まったと思ったが、美幸も横に半回転し両手両膝で地面との激突を回避した。


「ほお、凄い身体能力だ。」


「貴方こそ何の支えも無い空中で巴投げなんて、化物も良いとこだわ。でもこれで私の勝ちよw」

 にやっと笑い(瑞穂王国では魔女の微笑みと呼ばれている)タイセーを寝技に持ち込んだ。


「うっ!蛇かよ」

 あっという間に巻き付かれるタイセー


 天才的立ち技を持つ美幸だが、彼女の本当の恐ろしさは、柔軟性をフルに発揮して相手を締め上げる寝技にある。


「どうなってんだこれ?」

 タイセーの後ろから前頸部にあてた右前腕を左手で思い切り締め上げた。


「裸締めよwすぐに楽になるわ」

 頸部を圧迫してタイセーを落としにかかる。


「こりゃ凄いな、力自慢の男達でも一瞬で落とされるぞ。」


 と言いながら美幸の左手首をガントレットごと、右手1本で潰すようにねじ曲げるタイセー


「つっ!」

 このままでは左手首を折られるため裸締めを解除、タイセーの右手首を握り自分の左腋に挟み右肘関節を伸ばしにかかる美幸


「初めてよ私の裸締めから逃れた人は、でもこの腕ひしぎ脇固めで終わりよ!」


 完全に決まった関節技に、モモのバフで2倍になったパワーを加える美幸


「技の切り返しが速いな。過酷な鍛練を積み重ねたのが分かるぞ、素晴らしい。」


 称賛しながらもタイセーは、決められている右肘を上腕二頭筋の力だけで元に戻す。


「ぐうぅぅぅ、なんてパワーなの!」

 驚愕する美幸の左腕を掴み、一瞬で右腕も振り払うと体を入れ替える。


「大したもんだ、楽しかったぞ」

 後ろから右腕で頸の前を通し左横襟を握る。同時に左腕を左腋下から右前襟を握り、両手を引くと頸部圧迫された美幸が絞め落とされた。


「そこまで!!ちょっとタイセー少しは手加減しなさい。」

 慌てて止めるバターズ先生。


「これだけの柔術を扱う強者に対して、柔術で手を抜くのは失礼にあたる。」


「……それはそうだけど、まったく…回復魔法かけるからどいて。」


「いや俺がやるよ。」


 眩しくも優しい、神々しさに溢れる光が美幸を包み込む。


「ああ~~~」


「痛みは消えたはずだが、どうだ気分は?」


「あっはい!と、とても気持ち良いです…」

 顔面どころか体全体を真っ赤に染めて俯く美幸。


 観客席の美幸ママ「あら?」


 バターズ先生「ほぉ~」


 モモ「春ですねw」


 ビューラー君「もうすぐ冬だぞモモ」


 モモ「…これだから朴念仁は…」


 ミーナ「モモ殿、ビューラーの言うとおり春では無いが…」


 モモ「ミーナちゃん……剣術ばかりしてるから……」


 ビューラー&ミーナ「??」


「先生。モモのバフ支援で強化されたのは間違いないとはいえ、柔術の技・間合い・速さ・何より切り返しに見られる身体能力の高さ。それと今日は禁止の水魔法は最高レベルと聞いている。これだけの人材Sクラスでは勿体無いのでは?」


「確かにタイセーの言う通りだと私も思う。これから学園長に提出する書類に、今すぐ特Sクラス編入を認めるべきだと書くつもりだ。」


 その時、魔力に乗せた大きな声が演習場に響き渡る。

「その必要はなくてよ。オリビア・バターズ先生!」


 皆が観客席最上段に視線を向けると、そこには学園長と事務局長を引き連れた

 サクラ王妃

 グリフィン皇太子殿下

 の2人が立っていた。


 先生「王妃様・皇太子殿下様」皆が跪くと

「良いのよ。今日は学園理事長として視察してるの、皆さん頭を上げて。」

 皇太子の飛翔魔法で演習場内に降りたった。


「美幸ちゃん、流石は撫子ナデシコの娘ね。風剣姫ミーナちゃんと引き分け"抑止力侯爵"の風雲児タイセー君との柔術も見事だったわよ。」


「いえ王妃様、見ての通り柔術で完敗しました。私等まだまだです…」


「そうかな?タイセーはそうは思ってないみたいだが?」

 グリフィン皇太子の言葉にタイセーは


「ええ、今すぐ特Sに編入させるべき逸材です。」


「えっ!」

 タイセーの一言で、またまた真っ赤になる美幸。


「ん?どうした?熱でもあるのか?」


「はぁ~グリフィン…あんたまで朴念仁なの…ビューラー君とミーナちゃんの3人で"朴念仁クラブ"でも作る?」


「母上、意味が分かりません。」


「全くこれだから。さて理事長権限で私から公式に申し上げる事がございます。これから述べる事に対して異論は一切認めません、宜しいですね学園長に事務局長。」


 はあはあ言いながらも観客席最上段から、やっと演習場内に降りてきた2人。


「「御意!!」」


「宜しい。では瑞穂王国の美幸ミユキ・バーランダー公爵家第1公女。此度の模擬戦において高い戦闘能力を発揮、事前に行われた座学も490点と特S基準をクリア。よって本日付でセリーグ王国立ドーム学園・中等部3年特Sクラス編入を認めます。今後も勉学・武術・魔術の鍛練怠らぬよう励みなさい。」


「なっ!本日付!」


「どうしましたか?美幸・バーランダー」


「いえ、謹んで特Sクラス編入の件お受け致します。今後もドーム学園特Sクラスの名に恥じぬ用精進致します。」


 学園長「いや(汗)それは…」

 事務局長「前例が(汗)無いですが…」


「そこの2人。次の仕事先を探したいのですか?転職先なら私が紹介しましょうか?」


 学園長「流石王妃様、お目が高い。特Sクラスに相応しい人材です。」

 事務局長「学園長の仰る通り、前例等些細なこと気にする必要はございません。」


「宜しい。2人とも今後も学園運営に尽力しなさい。私も毎年爆大な寄付金をしている理事長として、視察をしますので宜しく頼みましたよ。」


「「は、はあ~(汗)」」


「「「……………」」」

 この人だけには逆らってはいけないと、全員が決意した瞬間であるw


「タイセーのおかげで面白くなりそうだなww

 母上、この2年間特S基準をクリアしても授業出席は辞退しておりました。

 私においては魔の森で命懸けの実戦が最大の修練。

 今もその考えに変わりはないですが、今日から編入してみようかと思います。宜しいでしょうか?」


「グリフィンやっとその気になりましたか。

 確かに実戦で戦闘力と経験値を積んできた貴方のやり方を否定はしてません。

 でも学園での人脈作りも皇太子として大切な事です。学園長、事務局長、グリフィンの申し出宜しいですか。」


「「ごもっとも!」」


 バターズ先生

「これって黄金世代の5人を上回る6人になるってこと?」


 タイセー

「何か知らんが楽しくなりそうだな」


 顔面真っ赤な美幸

「タ、タイセー様。私も楽しくなりそうです。」


 ビューラー

「あのさあ~俺まだ美幸さんと模擬戦やってないんだけど…」


「「「だから、そういう所なんだよ朴念仁!!」」」


「……俺…何か悪い事したの…」


 ーーーーーーーーーー


 こうして美幸とグリフィン皇太子まで編入した特Sクラス。

 史上初の6人となり、後の世までプラチナゴールド世代と語り継がれます。

 特にビューラー君とミーナは"朴念仁の星"として、特殊な人たちから愛されて止まないカリスマと崇められたとかw



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