4-08
神社での参拝を終え、有賀と別れ、帰宅してすぐに夕食をとり、風呂に入り、髪を乾かし、自室でベッドに寝転がった。
何かをするわけでもなく、天井を見ながら克巳さんからの連絡をぐずぐずと待つ。家族はみんな寝てしまったのか、気がつくと家の中はしんと静まりかえっていた。
時計を見る。
夜の十一時を回っていた。
やるか。
ぼくはのろのろとベッドから降りてクローゼットを開き、一番奥に立てかけてあるバスタオルの包みに手を伸ばした。そうっと外へ持ち出し、部屋の真ん中に置いて、バスタオルをはがすようにして四方へ広げると、細長い木の箱が姿を現した。古い匂いがふわりと鼻先に届く。箱の上面には「ネンズレバ イカナルトコロモ カケルマゴノテ」と書かれた細長い紙が貼られている。
――ここにいる東堂さんの頭の中を掻いてください。
あのとき、東堂さんの体には何の異常も現れなかった。
東堂さんの説明によれば、万が一のことを考えて、箱が発動するかもしれない力を事前に使い切ったから安全なのだということだった。
でも――
実は、あのとき東堂さんの脳内で出血はあったけれど、体調に異変が出ないような場所だった。もしくは、あのときは出血にまでは至らなかったけれど、血管にはダメージがあって、いつ出血してもおかしくない状態だった――という可能性はないだろうか。
つまり、東堂さんの脳内出血がこの箱の力によるものだったとすれば、この箱は本物ということになり、ならばこの箱はどんな願いでもかなえてくれる『カミノテ』だという可能性がある――ことにならないだろうか。
いや、ならないだろうな。
それでも、状況が停滞してしまっている今、打てる手は全部打っておきたい。
だめで元々、試してみても失うものはない。
ぼくは箱の前に正座をして深呼吸を繰り返し気持ちを整えた。
胸の前で両手を合わせ、半眼になる。
――病院にいる東堂さんの目を覚まさせてください。
きちんと声に出し、真剣に念じた。
額の真ん中当たりがぎゅっとなるほどに気持ちを込めた。
箱にこれといった変化は現れなかった。干からびた腕も見えなかったし、カシカシという音もしなかった。
ふう。
ぼくは箱に一礼し、合わせていた両手を膝の上に置いた。
これでいい。やれることは全部やった。
箱をバスタオルでに包み、元の場所――クローゼットの一番奥に立てかけた。
ベッドに戻りごろりと横になる。
まもなく日付が変わるが少しも眠くない。頭の中が透明になったかのように意識が澄み渡り、五感のすべてがチリチリと音を立てそうなほどに鋭敏になっている。
ぶぶぶぶ――
研ぎ澄まされた聴覚がかすかな音をとらえた。
低くうなる振動音――スマホへの着信だった。
「守山君ですか」
克巳さんからだった。
「はい、守山です」
「辰巳が目を覚ましました」
「えっ」
「ご心配おかけしましたが辰巳はもう大丈夫だそうです。今日は遅いので、明日の放課後にでも見舞ってやってください。もしよければ有賀さんもご一緒に」
「はい、二人でうかがいます」
「それでは、これで失礼します」
電話はあっさりと切られた。
このタイミングは、まさか――
スマホを持つ手が震えるというのは初めての経験だった。
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