3-11
妄想?
あの
長い説明を終え、フライドポテトをうれしそうに頬張るつぐみは、どうやらたとえ話をしたのではなさそうだ。そういえば中学時代のつぐみは、昼休みのほとんどを空想の世界に入り込んで過ごしていたという記憶がある。その経験から思いついたのかもしれないけれど、あれが妄想でなかったことは私自身がよく知っている。城崎さんが私のことを嫌う理由について、あれこれ考えたことが妄想だと言われれば否定はできないけれど、どちらかといえばそれは推測だろう。とにかく城崎さんの存在は妄想ではない。自信をもって断言できる。
それでもつぐみなりに一生懸命考えてくれたんだってことは伝わってきた。私の経験したことが細かいところまできちんと反映されているし、不思議だったり疑問に思っていたことに全部答えてくれている。自分のこととして聞かなければ、たとえばつぐみ自身の話だというのであれば、本当にそうだったんじゃないかと思うことができただろう。
でも違う。城崎さんも公園の人物も妄想ではないのだ。全部は理解できなかったけれど、もう一つの可能性として話してくれたやつ――城崎さんがドッペルゲンガーで、その世界ごと消えてしまったという説明の方がまだ受け入れられる。でも、それはないだろう。お話としては面白いけれど。
「ごめんね。すごく時間をかけて考えてくれたんだと思うけど、私の実感としては、どっちも違うような気がするんだ」
「やっぱり? 守山君にもちょっと呆れられてたから、なっちもたぶん呆れちゃんだろうなとは思ってたんだ。でも、ほら、もしもってことがあるから、とりあえず言ってみないとね。守山君も、自分の考えを伝えるってことは問題ないよって言ってくれたから。ただし、押しつけちゃだめだぞって釘を刺されたけど」
「その守山君っていう人は、つぐみの彼氏なの」
「彼氏? んーとねえ、そういうんじゃないなあ。私、そんな風に話してたかな」
「彼氏だとは言わなかったけど、ずいぶん親しそうだし、つぐみが信頼しているっぽいから」
「うん、仲良しだし、信頼もしてる。いろいろ心配もしてくれるんだ。だからね、彼氏っていうよりも保護者って感じかなあ」
「保護者って――同級生なんだよね」
「うん、二年生になって同じクラスになったんだ」
笑っている。屈託がないというのはこういう表情のことをいうのだろう。私はこんな風には笑えない。つぐみの笑顔を見ていると、彼氏でも保護者でも、どっちでもいいじゃないかという気持になってくる。
「えっと、もう一人の東堂さんっていうのはどういう人なの」
「すごい人だよ」
「いい意味で?」
「もちろん。ちょっと前に、弟のことで私もうダメだってなってたときに、東堂さんが全部解決してくれたんだ。結局、ほとんどが私の思い込みだったんだけど、東堂さんが助けてくれなかったら、私、本当にダメになっていたと思う」
つぐみがダメになるというのなら、絶体絶命のピンチだったのだろう。しかもその原因がつぐみの思い込みだったとなると、相当にやっかいな状況だったに違いない。
「東堂さんって何歳なの? 守山君とはどういう関係?」
「どうなのかなあ。三十歳よりは上だと思う。守山君のアニキって感じかな」
「アニキって――」
「守山君は敬語を使ってたけど、距離は近い感じ。あ、そうだ、塾の先生でね、今、うちの弟もその塾に通ってるよ」
情報がバラバラと入ってきて、東堂さんという人のイメージが定まらない。でも、つぐみも、その保護者である守山君も信頼しているようだから、悪い人ではなさそうだ。
会ってみようかな。
このまま一人で考えていても、つぐみとこうやって話をしていても、すっきりとした気持にはなれそうにない。つぐみの相当こじれていたであろう問題を全部解決したというのが本当なら、期待できるかもしれない。
「その東堂さんには、城崎さんのことを全部伝えてあるんだよね」
「私が直接は話してないけど、守山君が伝えてくれてる」
「さっきのつぐみが考えてくれた二つの説も?」
「うん」
「その上で、もし私が会いたいって言えば、会ってもいいよって言ってくれてるんだよね」
「そうだよ」
どうしよう。ちょっと不安はあるけれど――
「じゃあ、お願いしてくれる?」
「うん、わかった」
つぐみの表情がぱっと明るくなった。
何の根拠もないけれど、ああ、これで大丈夫だという気がした。
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