第64話

私の言葉に三浦さんが目を見開いたのが見えた。




「三浦さんはずっと、私の傍にいてくれた。仕事で辛かったときも、疲れて愚痴を聞いてほしいときも、琢磨さんとのことで悩んだときも……、浮気されて泣きついたときも」



 これ以上泣いたらだめだと思うのに止まらず溢れだす涙に、私は顔を隠して見せない選択を選ぶ。



「いつも、私の傍にいてくれたのも、私が側にいてほしいと思ったのも三浦さんだった。関係を壊すのが怖くて好きって言えなかったけど、本当は、もっと前から好きでした……っ」



 もしかしたら、琢磨さんと付き合っているときから三浦さんに惹かれていたかもしれない。


 琢磨さんに話せないことは三浦さんに話していた。


 琢磨さんに甘えることができない分、三浦さんに甘えていた。


 認めるのが遅かっただけで、自分が自覚する前から三浦さんに恋をしていたんだ。



 私の告白が終わった後沈黙が流れ、私も泣いた顔を見せれず隠したまま俯いていると、三浦さんに左手を顔から離されて、指に違和感を感じた。



 びっくりして顔をあげて左手を見ると……



「え……、指輪……?」



 左手の薬指につけられたダイヤの指輪が目に入った。



「……俺も、真穂がこのままの関係を望んでいるなら無理に変えなくてもいいかなって思ってたんだけど、耐えられねえわ。真穂が他の男のせいで泣かされるところ」



「……っ、これは色々理由があって…」


「理由があっても腹立つの」



 言葉は怒っている感じなのに、私の頭を優しく撫でる手はとても優しくて、言葉の続きを催促するように三浦さんを見上げると、優しい笑みを向けてくれた。



「もう真穂が傷ついたり変な虫にちょっかい出されんの耐えられないんだ。俺、結構真穂のことまったし、回りくどいこと嫌いだから、結婚しよう」



「……いきなり、結婚?」


「これ、婚約指輪。俺は浮気せず真穂一筋だよ」


 そう言った三浦さんの目は私じゃなくて他のところを見ていた。


「え、どこ見て言ってるの…?」


 不安になって三浦さんの目線の先を追えば、私たちから数メートル離れた階段の上の方からこっちを見ている琢磨さんと新垣さんの姿があった。



「俺は、こんな可愛い真穂を泣かさないし、傷つけない。だから……」


 その後の言葉は声にならなかったけど、2人の顔がこわばったのが分かった。


 三浦さんが私に聞こえないように声に出さずに何かを伝えたのは分かったけど、私の角度からは読み取ることができなかった。

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