第63話

「っ――――…」




 扉が開いて乗り込もうとしたのに、先に乗っていた人たちを見て呼吸が一瞬止まった。


 乗る勇気がなく足が固まっていると、何も言わず琢磨さんがボタンを閉めてエレベーターを動かしてくれた。



「……ッ…―――――」



 私が乗ろうとしたエレベーターに乗っていたのは琢磨さんと新垣さんの2人だった。


 公認している2人が一緒のエレベーターに乗っていたって、仲良く腕を組んでいたって問題ない。


 しかも、就業時間が終わった後だし。


 ただ、そんな場面に出くわして気まずい人物もいるんだと知っていてほしかったな。


 元カノの立場として、琢磨さんと新垣さんとあんなことがあった立場として、2人と同時に出くわすほど気まずいこと、ないよ。


 ふっきれたはずの気持がまた込み上がってきそうで、抑え込むようにボタンを押して次に来たエレベーターに乗り込んだ。


 スマホを確認すると3分前に三浦さんから着いたと連絡が入っていた。



「……早く会いたい……」



 ……ポタ…ポタポタ……



 スマホの画面に雫がひとつ落ちると、あとからあとからいくつも零れ落ちた。


「こんなことで泣きたくないよ……っ」


 

 泣きたくなかった。


 三浦さんに告白するつもりだったのに、琢磨さんと新垣さんを見て泣いて、こんな顔で告白なんてしたくなかった。


 出来ないよ、まだ気持ち、言えないよ…。



 1階までたどり着いたエレベータを駆け足で抜けて玄関を通り抜けて、三浦さんが待っている下まで会社前の階段を駆け降りる。


 四駆のベンツを会社前に止めて、助手席側のドアに寄りかかりながらスマホを眺めていた三浦さんは走る音で顔をあげると、すぐに私を見つけてくれた。



「み、三浦さん……!」


 

 三浦さんを前にして隠せることなんてないって分かってる。


 だから、こんな泣き顔でも嫌いにならないで。


 階段を降り切り三浦さんに駆け寄ると、近くまで来た私の腕を掴んで自分に引きよせた。


 急に掴まれ引っ張られた腕に私は体制を崩して、そのまま転ぶように三浦さんの腕の中に閉じ込められた。



「――――っ…三浦さ……」



 背中に回された三浦さんの腕が強く強く私をとじこめる。



「何泣かされてんの?」


 冷たい声が私の耳に届く。


「…っ、違う、これは……」


「真穂の中からあいつは消せないの?」


「そ、そんなことない!わたしは三浦さんが……!」


 言うのをやめるつもりだった”すき”を最後まで言うことができず、私は会社の前なのに三浦さんに頬を掴まれキスをしていた


「っ……!!」



 触れるだけの簡単なキスが離れると、悲しそうな顔をした三浦さんが目の前に飛び込んできて、今度は私がめいっぱい背伸びをして三浦さんにキスをした。



 唇が離れてつま先立ちした足が地面に戻ると、自然を言葉が口から溢れていた。












「好き。三浦さんが、好き―――――」

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