眠りの王子に優しいキスを

第56話

三浦さんの仕事が終わるまでオーナーの仮眠室で休ませてもらうことにした。


 繭ちゃんに続いてお店の二階に上がると、仮眠室という単語で簡単に表すのが勿体ないぐらいおしゃれな空間が広がっていた。


 ベッドに黒の冷蔵庫、大きな観葉植物、インテリアになるハンガーラックにアンティークなテーブルの上にはチェス盤。


 黒を基調に白と赤と木を組み合わせた部屋は、オーナーのセンスの良さを教えてくれた。



「すっごいおしゃれだね」


「自宅の部屋はモノトーンで落ち着いてるんだけど、ここは隠れ家みたいにやりたいように詰め込んだんだって」


「なるほど……!」


「ベッドが1つしかないけど、ダブルだから一緒に寝よ」





 先に上がった繭ちゃんが脱いだコートをハンガーラックにかけて、わたしのコートも受け取って一緒にかけてくれた。



「おじゃましまーす」


 一言断りを入れて私もオーナーの仮眠部屋に足を踏み入れた。



 繭ちゃんは躊躇なくベッドに入ろうとするけど、私はそれに続くには勇気がいることで……なんとなく2人のそういうところをイメージしてしまうわけで……。


「真穂?」


「……私も入っていいのかな」


「いいよ。遠慮しないで!ちょうどシーツ洗ったばっかできれいだよ」


 屈託なく笑う繭ちゃんに変な気を使わせるのも悪いと思ったので、スペースを開けてくれてる繭ちゃんの隣に私も入り込んだ。


 ふかふかベッドが体を優しく包み込んで気持ちいい…!


「このベッドすごい!気持ちいいよ!」


「ね。私もこのベッド好きなの。朔眞たちが来るまで時間があるから、ゆっくりくつろごうね」


「うん」


 こうやって2人で一緒のベッドに入って寝るのは久しぶりで、懐かしさと嬉しさで満面な笑みを見せる繭ちゃんに、私も同じ気持ちで返事をすると…睡魔に誘われるように2人で落ちていた。










 遠くで三浦さんとオーナーの話す声が聞こえる。



 なんて言ってるか分からないけど、2人の話す声が子守唄のように気持ちいい。


 もう一度夢の中に誘われるように眠りにつこうと思った体が起こされ、体に触れる感覚から三浦さんに抱きあげられたのがわかった。




「じゃ、朔眞さん。本当にありがとうございました」


「いいよ。気にしないで、落ち着くまで真穂ちゃん優先してあげて」



 三浦さんの声はすぐ近くで聞こえるけど、オーナーの声は少し遠くに聞こえた。



 私の体が揺れる感覚があって、三浦さんが私を抱きあげたまま帰るみたい。


 この振動と三浦さんの匂いが気持よくて、今度は素敵な夢が見れる予感がした。



「三浦…さ…ん…すき……」


「……俺も好きだよ」



 夢の中に出てきた三浦さんに、現実では言えない気持ちを伝えたら、三浦さんが私を抱きしめて同じ気持ちを返してくれたのが、すごくリアルに聞こえた…。

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