第55話
「あと私が知ってることは、真穂からの連絡で同僚の由香ちゃんのところに泊まったことと、和希からの事後報告で元カレとトラブルがあったこと、元カレの今カノからビンタ食らったことかな」
「繭ちゃんが知ってることが話の全てです…。わたし、三浦さんに今カノからビンタされた話はしてないはずなんだけど…」
「佐藤さんと電話で話したときに聞いたらしいよ。真穂が泣いて家出した理由も」
「え、え!?三浦さん知ってるの!?え!?」
「……真穂さ、もう素直に好きです。付き合ってくださいって言えば?」
さらっと私が言えずに悩んでいることを言っちゃう繭ちゃんに、ジェスチャーを使って「しーっ!聞かれちゃうから!」と訴えかけるけど、気にした様子なくカクテルを飲んでた。
「高校の時から和希を見てるけど……あんなに真剣に一人の人を大事にするところ、見たことなかったな」
繭ちゃんの声は少し懐かしさを含んでいた。
「元カレのことは解決できたんだよね?」
「うん……、大丈夫だと思うんだけど、実際に会社に行ってみないとなんとも…」
「和希にブッ飛ばされたんでしょ?もう真穂にちょっかい出そうなんて思えないよ」
笑い飛ばす繭ちゃんを見て、これ以上三浦さんの過去に触れるのはやめておこうかな……と思ってしまった。
「あとは今カノのことだけど…なんで矛先が真穂に行くんだろうな。そこらへんが元カレのクズらしいところだけど、今カノも同類なのかもね」
「繭ちゃん…怒ってる?」
いつもと変わらない様子に見える繭ちゃんの言葉の片鱗から怒りが伝わってきて、恐る恐る確認してみたら「もちろん。元カレと今カノにね」と返って来た。
「真穂にこれ以上何かあったら、和希も私も朔真も今みたいにわらっていられないぐらい怒り狂ってたかもしれない。だから、これからはもっと頼ってね」
優しく微笑む繭ちゃんが私の涙のせいで滲んで見えない。
ありがとうを何回言っても足りないよ……。
「繭ちゃんありがとう、大好き…!」
「ありがとう。嬉しいけど、”それ”は和希に言ってあげてよ」
「まだ無理…っ」
止まりそうにない涙を隠すために両手で顔を覆った。
「まだ、自分に自信がない……琢磨さんのこと、琢磨さんの今カノのことが解決したと思ったら、三浦さんに伝えたい…っ」
今の全部中途半端な自分じゃなくて……
あの夜、琢磨さんのこと、これで終わりに出来たと思ったけど、それは私の心の中でだけあって、実際にどうなるかはこれから確認しないとわからない。
今のところ、まだ琢磨さんからのラインは入ってないけど、顔を合わせるかもしれない会社に行くのが正直怖い。
泣いたまま何も話せない、顔も上げられない私の頭を優しく撫でてくれた手が繭ちゃんのものではなかった。
「時間が解決する。だから、真穂が追いつめられる必要ない。今は充分、俺らに甘えて休めばいいから」
「……和希はどこから聞いてたの?」
「真穂が泣いてるから来たんだよ。繭、傷ついてる真穂に塩塗るなよ」
「ちがうよ。はっきりしない女々しい和希が悪いんだよ」
頭の上で始まるケンカに急いで顔をあげると、泣き顔を見て笑う2人の顔があった。
――――時間が解決する、大丈夫。
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