第54話
「真穂はお店には来た?」
「え、あ…うん」
三浦さんとお客様とのやりとりを見て泣いて帰ってしまい、そのまま家出…と恥ずかしい流れだったから、なんとも返事をしがたい質問だったんだけど……。
この後がもっと恥ずかしかった。
「ちょうど買い出しに出てた子が、真穂が泣きながら走って行く姿を見てたんだって」
「……えっ、うそ…!」
「それを朔真にこそって教えてくれたんだけど、真穂って言葉に反応した和希がすぐに問い詰めて。私たちの間で真穂に何かあるんじゃないかって相談しあってた時だったから余計に敏感だったんだと思う」
それを聞いて、私が琢磨さんのことで悩んでいることを三浦さんたちは察して心配してくれてた事実を知ることができた。
「和希がすぐに連絡しても真穂のスマホに繋がることがなくて、ちょうどテンパってるときに私がお店にきて。真穂に連絡が繋がらないって聞いて私もテンパって…」
「そんな大ごとになってたなんて……申し訳です…」
「真穂のせいじゃないよ!真穂のこと大事なくせにちゃんとしてなかった和希が悪いんだから。……和希が電話を繰り返ししてるから、私は電話はやめてラインの連絡にしたんだけど、繋がらない度に不安になってきて、朔真が様子を見に行けって和希を追い出して」
「え…!」
自分の軽はずみの行動がだんだん大きくなる事態に後悔の汗しか出て来なくなってきて……。
「朔眞が自宅に戻って確認したけど真穂がいなかったらしくて、そのまま飛び出して探しに行きそうな和希に朔真が怒鳴って落ち着かせて、お店に着たら連絡するから和希は自宅にいてもらうことにしたの」
「もう、これ以上聞くのは耐えられないほど、申し訳ないことをしました……」
「私と朔真の見解は『ちゃんとしてなかった和希が悪い』以上!大事に思ってるくせに肝心なところが甘いからね。今回のことは和希が一番反省してるんじゃないかな」
そう言ってカウンターで接客する三浦さんに目を向ける繭ちゃん。
私も同じように目を向けると、今まで通り楽しそうに穏やかな雰囲気が漂うお客さまとのやり取りが、ちょっとだけ見えない線を引かれているように見えた。
「和希の元の性格が優しい部分はずっと変わらずあると思うんだけど、一番大事な人を傷つける優しさはだめだよね。これからは、もっと2人で気持ちを言葉にすることも大切じゃないかな」
「……うん、繭ちゃん、話してくれてありがとう」
「どういたしまして。どんだけ和希に愛されてるか伝わったでしょ?」
繭ちゃんはあの和希がテンパるほど真穂が愛されてるって知ってほしかった。と満面な笑みで笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます