第45話

琢磨さんは今年29歳になり、三浦さんは繭ちゃんの同級生だから今年28歳だ。


 年下にあんなに怒られて情けない姿を見せられ、私の見る目のなさも加わって余計に悲しくなった。


 

 背中しか見えなかった三浦さんが振り向いて、私の前でしゃがみこみ私の震える手を握った。


 三浦さんの手が触れるまで、自分の手が震えていることに気付かなかった。


 由香はそっと私の傍を離れて、会議室の扉を閉めて2人きりにしてくれた。


 三浦さんと2人きりになった空間で、急に色んな気持ちが押し寄せてくる。


 床に座り込んだ三浦さんの長い足が私を間に挟んだ。





「真穂、……すごく心配した」


 

 耳に届いた三浦さんの声はさっきと違って、優しくて甘いものだった。




「ご…ごめんなさい…」


 涙があふれた。


「なんで?真穂は悪くないよ」


 優しい声が私を包んでくれて、顔をあげて三浦さんを見ると優しく微笑んでくれていて、余計に涙があふれた。



「相談、しなくてごめんね」


「……うん」


「無断外泊して、ごめんね」


「……うん」


「心配かけて、ごめんね」


「……うん」


 私のごめんねを三浦さんの優しい相槌が一つ一つ受け止めてくれる。




「助けてくれて、ありがとう…っ」



 

「――――っ!!」



 私の震える手を握っていた三浦さんの手が離されて、三浦さんの香りを強く感じた時には抱き寄せられていた。



「真穂、…っ!」



「三浦さん…助けてくれて、ありがとう」




 諦めてた。


 もう綺麗な体で三浦さんに助けを求めれないと思ってた。


 この場を早く終わらせて三浦さんに会いたいって、絶望感じて諦めてたのに、三浦さんは助けに来てくれた。


 勝手に無断外泊して心配かけたのに。


 連絡だって返してなかったのに。



「三浦さんが助けに来てくれて、嬉しかった。……もうだめかと思った……」


「そんな怖いこと言うなよ、俺、間に合わなかったらあいつ殺してたかも」


「こ、怖いこと言ってるの三浦さんだよ…」


「今だって必死に抑えてるけど、まじであいつに殺意湧いた」


「……いつも、大事に思ってくれてありがと」


 


―――私、三浦さんがいるから生きていけるよ。



 そう言ったら、三浦さんの涙が私の首の後ろに落ちて背中を伝った。


「真穂、うちに帰ろう」


 私から腕を離した三浦さんが先に立ちあがり、私を引っ張りあげてくれる。


 脱げ落ちたパンプスを持ってきてくれて、シンデレラの靴のように三浦さんが履かせてくれた。


 私が履けたのを確認すると、三浦さんは手を離して私の前を歩く。


 先に扉についた三浦さんが開けよう手をかけたのを阻止するように、私のバックから飛び出していたICカードを拾い上げ、部屋にロックをかけた。



「―――真穂?」


 

 私の動作にびっくりして振り向く三浦さんに、頑張って背伸びをしてキスをする。

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