第41話

昨日のようなことがあると困るからってことで、由香とは一緒に帰ることになっていた。


 未だに今後のことをどうするか決めかねている私は残業をしながら時間と睨めっこを繰り返す。


 デスクで待たせるのは悪いと思ったので、上の階にある女性社員専用のラウンジルームで待っててもらうことにした。



 運がいいのかタイミングが悪いのか、午後に任された仕事が就業時間までに終わらず、なんとか完成して提出した時には20時近い時間になっいた。


 

「ヤバい…!だいぶ由香を待たせてる…!」



 急いでデスク周りを片づけて荷物をバッグにしまい、フロアの入り口でICカードをかざして退勤登録をした。



 わたしの提出を待っていてくれた部長に「お疲れまさです」と声をかけると、「急に頼んだのに仕上げてくれてありがとう」と言ってくれて、頑張ってよかったと思った。


 上の階に向かうエレベーターに向かいながら、『由香に終わったから今から向かうね』とラインを送る。






――――ぐいっ!




 急に腕を掴まれて、歩いていた足が行き場をなくして崩れそうになる体制を一生懸命堪えた。


「え…っ」


 びっくりしていると、聞きなれた…聞きたくなかった人の声が慣れ慣れしく私の名前を呼ぶ。


「真穂、まだ残ってたんだ?」


「……琢磨さん」


 体制を整えて離れようとするのに、掴まれた手が強すぎて離してくれない。


「なあ、なんで返事くれないの?寂しいじゃん」


「……別れてるのに、連絡する必要ありますか?」


「別れたけど、真穂は好きで別れたわけじゃないじゃん」


「っ…別れたことに違いはないし、今は琢磨さんに恋愛感情はありません」


「なかったことにしようとしてるだけだろ?真穂の初めての男って俺じゃん。そんな簡単に忘れられねえだろ」


「……っ」


 ”気持ち悪い”


 この人に初めてを捧げたことも。


 今、この人に掴まれてる腕も。


 ここから逃げたいのに逃げられないことも。



「それに、真穂。昨日と同じ服だろ?」


 めざとく気付いた琢磨さんが顔を近づけてくる。


「新しい男とお泊り、ですか?俺と別れてすぐに男作ったんだろ」


「……琢磨さんに言われる筋合いありませんが…」


「あいつさ、顔も美人だしモデルみたいにスタイルがいいし、一緒に並んで歩くにはマジで最高なんだけど、胸が物足りないんだよな」


「……何言ってんの…?」


「やっぱ真穂ぐらい大きくないと、楽しめないだろ?真穂は感度も良かったし、素直で、締めつけも最高だったよな」


「――――っ!!!」


 気持ち悪さで全身に鳥肌が立ったことに気付かず琢磨さんは続ける。





「また俺のところに戻ってこない?」

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