第38話

「元カレ関連ですか?」


「はい…。真穂が浮気された時に一緒にいた相手が今の彼女らしいんですが、同じ会社の秘書課の人なんです。元カレと同期で、結婚前提のお付き合いで婚約する話も進んでるらしくて、」


「………」


 黙っている三浦さんの沈黙がすごく怖い。


「元カレから一方的な連絡なんです、真穂は一切返してないのに、その今カノの矛先が真穂に行ってしまい、今日、頬が腫れるほどのビンタをされて帰って来たんです」


「っ……!!」


 次の瞬間、電話越しに何かが壊れる音が聞こえて、シーンとなる電話の沈黙が数秒続き、冷静な三浦さんの声が聞こえてきた。


「真穂は、……大丈夫ですか?」


「メンタルは結構きてると思います、元カレの連絡は頻繁に来てたみたいだし、今日はすれ違うときに何かされたみたいで、トイレにこもってないていたし…」


「………っ」


 今すぐ真穂に会いたいもどかしさが伝わる。


 電話越しなのに、真穂のことで怒ったり心配する三浦さんが全部感じとれて、私のところに来るより、素直に三浦さんのところに帰ってた方が安心できたと思う。


「真穂が、今日泣いて帰ったのは、…俺に関係がありますか?」


「……見ちゃったみたいです。三浦さんと綺麗なお姉さんが親密に仲良くしているところ。それに傷ついてうちに逃げてきました」


「……それか…」


 小さな声だったけど、三浦さんがこぼした本音は私に届いてしまった。


「あくまで”お客様”ですよね?」


「そうです。……軽率な行動だったと後悔してます」


 真剣な三浦さんの声が真実しか話してないと伝わってくる。




「俺は、真穂しか見えてないです。大事にしたいと思うのは”真穂”だけです」





「……すごくわかります。真穂の”次の彼氏になる人”が三浦さんでよかったです」



「―――っ……明日、真穂を迎えに行くので捕まえててもらえますか?」



「かしこまりました」




 逃げ出した子犬は、飼い主さんが捕まえてくれるみたいです。

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