第33話

「よかった!真穂の戻りが遅いから心配してたんだよ。どうしたの?お腹痛い?」


 由香の声に安心して、緊張の糸がゆっくり切れた。


「由香……」


 由香を呼んだ声が泣き声になっていて、自分が泣いてることにようやく気付いた。


「真穂…?真穂、どうしたの?ここ開けれる?真穂…!」


 由香の声に個室の鍵を開けて扉を開くと、私を心配する由香の姿が見えて、私は由香に抱きついた。


 声が出せない代わりに涙がどんどん溢れてくる。


「どうしたの?ねえ、真穂…」


 抱きしめ返してくれる由香に「ごめん…ごめん…」と、それしか言えなかった。


 由香はそのままの体勢で、私が落ち着くまで背中をさすってくれてた。


「今は話しづらくても…、真穂が辛い時はすぐに助けに行くから。抱え込んじゃだめだよ」


「うん…うん…ありがとう…」


 由香のおかげで落ち着きを取り戻せた私は、由香から腕を離して顔を上げると「すごい顔」と笑われた。


「ちょっと待ってて」


 と由香に言われてそのまま洗面台に腰を預けて立ってると、私のデスクからメイクポーチを持って戻ってきてくれた。


「ありがと由香~!」


 由香のご厚意で手にしたメイクポーチで自分の崩れたメイクを直していく。


「ねえ由香」


「ん?」


「別れた元カレから連絡があった時、由香ならどうする?」


「……どんな連絡?」


「本命彼女がいるけど、会わない?とか、ご飯行かない?、とか」


「なにそれ。浮気相手かセフレになれってこと?」


「そう捉えてもいいよね?」


「元カレは隠せてると思ってるかもしれないけど、裏がだだ漏れで最低。……真穂、琢磨さんからそんな連絡来てるの?」


「………」


 私は黙ってうなづいた。


「ブロックしたら?せっかく好きな人と良い感じなんでしょ?」


「同じ会社だからブロック躊躇してたら、連絡が頻繁になってきて、すれ違う時の琢磨さんの様子もなんか怖くて、ブロックしてもいいのか…、どうしたらいいのか…」


「もしかして、さっきそれで…?」


「……うん」


「三浦さんに相談した?」


「うんん、まだ。今日話そうと思って」


「そうした方がいいよ!」


 由香の後押しが心強かった。


 不安な気持ちを話せて由香が聞いてくれたことで、気持ちが落ち着いて今後のことも大丈夫って安心感が生まれた。


「午後の仕事もばばっと終わらせましょう!」


「よし!頑張る!!」


 由香と気合を入れて部署に戻った。

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