繋がった赤い糸

第32話

別れてから一切連絡なかった琢磨さんから、あの日のラインをきっかけに毎日のように連絡が来るようになった。


 同じ会社で勤めているし、琢磨さんの影響力を考えて簡単にブロックできずに、なるべく既読をつけないように気を付けて過ごしていた。


 何度か繭ちゃんや三浦さんに相談しようと思ったけど、これは自分で解決しないとだめだと思ってやめた。


 今のところ、今の私にいい考えなんて浮かぶはずもなく、ただただ琢磨さんからの接触を避けることだけを考えていた。



「……っ」


 エレベーターから自分の部署に戻る途中、反対側から同僚たちと話ながらこっちに向かって歩いてくる琢磨さんと目があった。


 以前は琢磨さんと同じ営業部だったので、全員顔見知りの先輩たちだ。


 何人か気付いたときに手をあげて挨拶をしてくれて、私も頭を下げて挨拶をする。


 その様子をずっと獲物を狙うような目でじっと見る琢磨さんが心底怖かった。


 すれ違う瞬間に自然と触れた肩にぞくっと悪寒が走って、すぐに逃げたい衝動にかられたのを必死に抑えて、冷静を装ったフリをしてその場から逃げる


 一瞬だけ魔がさして後ろを確認したら、初めて見る顔で琢磨さんがほほ笑みながら私を見ていて、急いで顔をそらして逃げた。


 怖い、怖い、怖い……!


 自分の部署があるフロアのトイレにかけこみ、個室に入って急いで鍵をかけた。


 その瞬間、スマホが着信を知らせて私の体はびくっとその場で跳ねた。


「え…あ…」


 驚いたままの手でスマホを握って通知を確認すると、琢磨さんからのラインが入っていた。


 通知は開かなくても書かれていた最初の「真穂はいつ暇?久しぶりに食事でも行かない?」に、下心しか感じなくて嫌悪感で吐き気がした。



「怖い…怖いよ…三浦さん…」


 スマホを強く握って私はその場にしゃがみこんだ。


 この時間はまだ三浦さんが寝ている時間。


 ラインをしたら、起きたときすぐに見てくれるけど、心配して仕事休んで飛んできちゃうかもしれない。


 まだ大事にしたくないし、三浦さんに迷惑をこれ以上かけれない。


 仕事が終わったらRedMoonに行こう。三浦さんに相談しよう。


 そこで今度のことを考えればいい。


 そう決めて立ち上がると、女性の足音がこっちに向かって近づいているのに気付いた。


 トイレの入り口付近で一度止まった足音に耳を澄ますと、「真穂いる?」と聞きなれた同僚の声がした。


「由香?」


 返事の代わりに名前を呼べば、由香がすぐに反応してくれた。

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