第3話
今年の体育祭ははちまき交換しようと思った。
文化祭の行事は、一緒にやれたらいいな。
クリスマスには、少し勇気を出して放課後会えないかな。
バレンタインには本命チョコを渡せたら…。
後悔しないように去年しっかりしとけばよかったな。
ガラッー
急に教室の扉が開いた。
振り向くと、練習着を着た結城くんが立っていた。
「ーー…っ結城くん!練習は…!?」
「果歩は…っ、なんで部活行かないの?」
唐突にいわれた一言に、わたしはすぐに言葉を返せなかった。
戸惑ったわたしに結城くんが歩み寄る。
「クラスのやつに聞いた、突然退部したって。理由も教えてくれない、やめた理由も分からないって。やめたのって、ここで過ごすようになった2週間前だよな?」
結城くんの足が私の前でぴたりと止まった。
わたしは、制服のスカートを握ったまま顔を上げることができなかった。
「あんなに頑張ってたのにやめてもいいのか?なにかあった?」
「…うんん、ちょっと、疲れちゃって…」
ごまかすように顔にかかる髪を耳にかける。
結城くんの視線が痛い、目を合わせるのが怖い、軽蔑されたくない……、だけど、言えない。
転校する、明日からもういない、部活もそのためにやめたって言葉にしたら、別れを実感させられる。
いつのまにか、スカートを握るじぶんの手が震えていたことに気づいた。
結城くんが、震えるわたしの手を握ってくれたからだ。
「俺も疲れることたまにあるよ。…そういうときもあるよな、でも、退部は早まったと思うけど」
「結城くん…」
わたしの後ろの席に座って、結城くんも窓からグランドを眺めた。
「ここから俺らってこういう風に見えてたんだね」
結城くんの目線の先にはグランドで練習するサッカー部の姿が見える。
おなじクラスの山本くんが「亮はどこいった!?」と騒いでる声が聞こえる。
「結城くん抜け出してきたの?」
「泰助の声ここまで聞こえるな」
「……心配してきてくれたの?」
「………」
わたしの質問に結城くんは応えてくれなかった。
外を眺める結城くんの顔にオレンジの夕日がかかる。
とても、きれいだった。
放課後の教室、練習着の結城くん、少し汗で濡れた頬、髪にかかる優しい夕日、絵になるくらいきれいで、忘れないように静かに見つめた。
このまま時が止まればいいのに。
このままずっと、結城くんと2人の時間が続けばいいのに。
わたしは結城くんを眺めるだけしかできなかった。
気のきいた会話も、告白も、なにもできなかった。
ただただ一緒にいただけど、とても幸せな時間だった。
「……そろそろ泰助が気づきそうだから戻るわ」
「あ、うん!部活頑張ってね」
「おう。……果歩も、部活、諦めんなよ」
「……うん」
「果歩、また明日な」
いつもと変わらないわたしの大好きな笑顔で、結城くんは教室を後にした。
ポタ…ポタ…ポタポタポタ…
スカートに大きなシミができていく。
今日まで泣くことなかったのに、ついに涙は頬を流れだした。
大粒の涙になってポタポタ落ちて行く。
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