第2話
「え、え、なに?」
「…口のはしっこについてる」
「え?」
早瀬にいわれてすぐ手を伸ばしたのに、私より先に早瀬の指が私の口の端に触れて、とったものを自分の口に含んだ。
「え、え、えーーーー!!!」
「なに」
「な、なにじゃないよ…!」
なんで平然としてるの⁉
金魚のように口をパクパクする私を無視して、早瀬も画面をスクロールして確認をする。
その様子を大人しく見守ることにした。
真剣に画面を確認した早瀬は、テーブルの上に置いていたパンに手を伸ばす。
早瀬のマイペースな態度に翻弄されて、パンを持ってきていたことに気付かなかった。
「早瀬も今からお昼ごはん?」
「そう。すげーお腹減ってる。お店、今日も忙しかった?」
「うん、繁盛してたよ。午前中からぼちぼち人が入って、お昼前に落ち着いて、休憩行こうかなって思ったらこの時間まで混みだしたの。落ち着いてきたから、宮野さんが後退してくれてやっとの休憩。1時間ぐらいとっていいって」
「よかったじゃん、俺も早めに出勤したから、莉乃と同じぐらいの時間でフロアに行けるかな」
「わたしと一緒に休憩過ごしたいの?」
ちょっとからかうつもりで言ったのに、真剣な瞳で早瀬が見つめてくる。
「当り前じゃん、ずっと2人っきりでいたいと思ってるよ」
「…っ!」
いつも意地悪ばっかりいう早瀬の甘い表情に、胸がどきっとしてうるさい。
「今日ね、新作のTシャツも売れ行き好調なんだよ」
話を逸らすために、最近出た新作Tシャツを持ち出した。
「俺もこのデザイン好きなんだよね。メンズのデザインだけど、女性が着てもかっこよくなりすぎない絶妙なバランスが売れると思う」
「そうなのそうなの!私も今日着てきたの!男の人が着るとかっこいいのに、私たちが着るとクールな感じ、女性らしさが残った絶妙ラインがすごいよね!」
椅子から立って両手を広げて、早瀬が着ている様子を見やすいようにした。
デザイナーの卵の目になった早瀬は、着用したサイズ感や、実際に着ている感じのイメージをじーっと観察する。
「オーバーサイズを選んでワンピース風にしたんだ?」
「うん、シンプルでかっこよかったから、デザインを活かして可愛くなりすぎないように。このぐらいの丈感だと1枚でも可愛さが残るよね」
「下穿いてる?」
「穿いてるよ!!!」
「ふーん」
意地悪な目線に戻ったと思ったら、両方の太ももに早瀬の手が触れる。
Tシャツの裾をあげるように、手を沿わす早瀬に、緊張と恥ずかしさと動揺と色々入り交じって硬直状態。
「ほんとだ。ショーパン穿いてるね」
「は、早瀬…!さ、触るのは本当にセクハラ…!」
「莉乃が無防備すぎんの。Tシャツ着てるだけで可愛いのに、デザイン見やすいように無防備に両手広げて見せてくるし」
「だ、だって、そうした方が早瀬が見やすいかなって」
「きれいな脚だって隠さず出してるし、めくらないと穿いてるかどうかわかんないじゃん。今日、男性客だっていただろ?」
「そそそんな早瀬みたいに、人の脚なんか見ないよ」
「見るよ、莉乃可愛いし、体エロいもん」
「なにいってるの!本当にやめて!手どけて…!!」
赤面しながら、私を真剣な瞳で見上げる早瀬の手をどけようと触れると、そのまま手を掴んで引き寄せられた。
倒れるように早瀬の胸に飛び込むと、腕を回され拘束される。
「ねえ、莉乃、告白の返事、まだ?」
耳元に響く早瀬の声は甘い、甘い男の声だった。
「……へ?」
ぶち壊すように飛び出た間抜けな声。
「なあ、莉乃ちゃん。俺のした告白、忘れてるだろ?」
笑顔を張り付けてるはずなのに、怒っている般若が隠れきれていない!
怒ってる、怒ってる、確実に怒ってる…!
「いつになったら返事もらえるんだろうって待ってたのに、一向に返事がないどころか、ここ最近は告白されたこと自体、忘れてろ」
「うっ…、確かに、ここ最近の忙しさで、忘れてたかも…」
「最初の2日間ぐらいは、すっげー意識して、いつ返事するかどうか緊張している様子があったのに、この1週間ぐらいの莉乃はリラックスしすぎ。やっぱり忘れてたか」
「ごめんーー…ほら、新作出たり、忙しかったじゃん?」
「今すぐ返事して」
「今、今!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます