第10話

ササも私も自転車だから、二人で押しながら、まだ明るい街を歩く。

季節的に、日が落ちるのがだんだん遅くなる。


隣を歩くササと一緒にまだ上る夕日を背中に感じるが、ササの口は開かずずっと重たい。

私からも開くつもりは、ない。

というか、開けない。泣くことが目に見えているから。



「はる、は、気づいてんだろ?本当は」


急に、何のワンクッションもなく、ササが核心に踏み込んできた。

私はすぐに答えることが出来なくて、でもそのまま歩くことも出来ずに足をとめた


ササも立ち止まり、静かに私のことを見ている。

また、見上げたササの顔が切なげだった。


「本人の口から聞かなくたって、俺みたいにわかりやすい感じじゃなくたって、好きな奴のことなら、敏感にわかんじゃねえの?」


淡々と、ササが核心に迫る言葉をつなげて行く。

私は何も答えない、返さない。

ただ、うつむいて、拒絶の意味を主張してた。

それも、意味をなさず、ササは最後のとどめを私に刺した。


「……はる、」


「いやだ、」


「はる、わかってんだろ?」


「いやだ!!」


「大和には彼女がいるんだよ!!」










最後のとどめは、私の涙腺を壊すには十分の威力があった。


こぼれ始めた雫は、音を出すようにぽたぽたと大量に頬を流れて下に落ちた。


現実は痛くて、痛くて、見ないふりをしてた分、気づかないふりをしてた分、受け入れたくない現実ということで、痛くて痛くて、壊れた涙腺のせいで、前さえも見えなくて、俯いたまま、肩を震わせた。


私が鈍感になってたこと。

それは、大和に彼女がいることを実は感じてて、わからないふりをしていたこと。


ササは、そんな滑稽な私のこともわかってて、私が分かりたくないって思ってたのに、今現実を突きつけてきた。


大和から聞いたわけじゃない。

だけど、自分が確信したことを、自分以外の他人から聞くということは、もう真実から逃げ切れないのです。



痛い、痛い、痛い。

胸が悲鳴を上げる。


「はる、大和には、彼女がいる」


「わかってるよ!!!何度も繰り返さないで!!そんなこと、とっくに気づいてるよ!!」


つい感情的になる、気持ちが爆発する。


「……はる、」


「大和のこと好きだもん、好きな人のことだもん、ササに軽々しく口にされなくたって、私の気持ちも私自身のこともわかってるよ、なんで!なんで勝手に現実に引き戻すの??私邪魔したことなんてなかったじゃん!!夢を見ることさえ、だめなの!?ササに、私を傷つける権利なんてあるの!?そんなことが許されるの!?」


気づいてたら、ササに向かって怒鳴っていた。

でも、悲しすぎて、苦しすぎて、感情を抑えられない。

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