第51話

尚人から解放された後、完全に意識を手放すように寝てしまって、起きたのはカーテンから差し込む日差しに気付いた頃だった。


 ベッドから体を起こすともちろん全裸で、小さな日差しの中でも胸元につけられたいくつもの痕に気づくことができた。


 尚人は私の方を向いて無防備に寝ていて、まだ起きる気配はない。明日明後日は休日だから、このまま尚人と過ごしたいな。


 何もついていないサラサラの髪を撫でながら、尚人に「好きだよ」っと声をかけると、寝ている尚人が少しだけ体を動かしたけど、まだ完全に起きるのは難しいようだ。



 あと一週間たったら、こんな簡単に会うことも、無防備な尚人の寝顔を眺めることもできなくなる。


 だけど、大丈夫。

 私はここで尚人の帰りを待ってる。

 仕事も頑張って、将来は尚人のサポートができる頼りになる部下になるんだ。


 頑張ってきてね、



































 時が経つのはあっという間で、恋人になってからの方が時間の流れが早く感じて悔しい。


 今日、尚人がアメリカに飛び立つ。

 私は昨日から尚人と一緒に空港近くのホテルで過ごして、一緒に空港まで見送りにきた。


 もうすぐ、チェックインしないといけない。

 尚人はずっと繋いだままの手を離す気配はないけど、口数はどんどん少なくなって、私は少しだけ、これからのことが不安に感じる。



 アナウンスが流れて、今度こそ本当にお別れの時間。


 尚人が立ちあがって歩きだすと同時に繋いでいた手を離す。

 私に向き直った尚人に、今できる精いっぱいの笑顔で「待ってる。いってらっしゃい」と伝えた。


 尚人は立ち止まって、じっと私を見つめながら、言葉に悩んでいるのが受け取れた。

 早くて3年、長くて10年単位で会えなくなる。

 私の年齢的に、遠距離が長くなるほど結婚や出産の悩みも増えてくるかもしれないけど、ただ今は、大好きで大好きでたまらない尚人と離れないといけない事実が辛い。

 

 笑って送り出したいから、私が笑顔の間に行ってほしいけど、離れたくない。行ってほしくない。


 上着のポッケに手を突っ込んだ尚人が繊細な手つきで私の左手をとり、ダイヤの光る指輪を薬指にはめた。

 サイズもぴったりで、びっくりして顔をあげた私に、尚人は切なさと愛しさが入り混じった顔で笑っていた。


「俺、あんまり長く離れるってのに耐えられる自信ないから、絶対3年以内に戻ってくる。だから、待ってて。寂しくなったら我慢しないで電話して。会いたくなったら、会いたいって素直に言って。飛んで帰ってくるから」


「……うん、辛くなったらちゃんと言う、待ってる、ちゃんと待ってるから、早く帰ってきてね」


 笑顔でなんていれなかった。

 泣いて滲む視界を尚人に抱きしめられて余計に見えなくなってしまった。

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