第48話
何度も通って部長のマンションの道は迷うことなく進める。
だって、ずっと一緒に住んでたもん。
部長が私に手を出してこなくても、私が部長に好意を言葉にしなくても、他人同士が三カ月もひとつ屋根の下で暮らすなんてできないよ。
私も部長も、たった一歩を踏み出す勇気がなかっただけ。
もしこの一線を越えた時に、自分たちが望むような形になっていなくても、私は絶対、後悔しないって断言できるよ。
走れるだけ走って私は部長のマンションの前にたどり着いた。
もうこれ以上走る体力なんて残ってない。
息を整える前にオートロック画面の前で部屋番号を押して呼びだすと、驚いた部長の声が聞こえて、私は息が整わない声で、「会いにきました」と答えるのに精いっぱいで、その後すぐに切られた後、扉のロックが解除された。
わたしは急いでエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。
ぐんぐん上にあがるエレベーターに走ったバクバクとは違う心拍に心臓を支配されそうになる。
音を立てて扉が瞬間、目の前に飛び込んできたのは私を包み込む筋肉質の胸板で、すぐに部長に抱きしめられてることに気付いた。
私の背中でエレベーターの扉が閉まって動き出す音が聞こえた。
「あ、会いに来ました。会い、会いたくて…部長に、会いたくて…」
部長は何も言ってくれなかったけど、私を抱きしめる腕がより強くなったのを感じた。
私はそれ以上、言える言葉がなくて、部長の腕の中でバクバクする心拍を必死で抑えようとじっとしていたら、体を離した部長が私の唇に自分の唇を重ねた。
「…え…」
一瞬のことでびっくりして、目を開けたまま離れていく部長の整った顔をただ茫然と眺めていたら、部長が私の腕を掴んで歩きだした。
「ぶ、部長…!」
強引に歩みを進める部長に必死についていくように足を動かし、部長に続いて私も家の中に足を踏み入れる。
玄関の扉が閉まると部長の腕は離れると思ったのに、そのまま歩みを進めるから急いでパンプスを脱いでリビングまで歩みを続けた。
慣れた景色に心が落ち着き始めたとき、再び部長の腕の中に私はいた。
リビングには、奥様の優しく微笑んだ写真が思い出と一緒に飾られている。
「部長…!奥様に…ッ」
罪悪感から抵抗しようとする私を抑え込んだ部長が耳元で言った言葉に思考が止まった。
「―――――好きだ」
「二宮が、好きだ」
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