もう一人の王子様

第47話

「莉緒、部長とどんな話でそのこと聞いたの?」


「異動の話をした時です。どうしても日菜子先輩と部長のことが気になって……これ以上後悔したくなくて」


「そう、だったんだ…」


 2人がそんな話をしているなんて想像できなかったから、今年一番のびっくりした出来事だと思う。


「部長、不躾な質問をする部下に、真摯に向き合ってくれて、ちゃんと答えてくれました。だから、日菜子先輩に聞きたいです。日菜子先輩は”このままでいいですか”?」


 莉緒の質問は私の頭をがんっと殴るぐらいの威力があり、思考が停止した私は「検討します…」と、それ以上を言える戦闘能力を持っていなかった。


 その後は本当に女子トークを楽しみ、部署が異動してもまたご飯行こうと約束して解散した。


 帰る途中、スマホを取り出し翔真の背中を押そうと思ったけど、これは見守るのが一番だと反省してそのままにした。


 莉緒と話がちゃんとできて良かった。

 逃げずにそのままにしてたら、こんな良い関係で莉緒を送り出してあげることもできなかったし、大事にしたい縁を失った後悔で思いだす度に泣いてたかもしれない。


 結果が悪かったとしても、大事な人とは向き合うことがお互いのために必要なんだって思った。

 そして、私がもう一つ抱えている後悔も、今は顔を出しては引っ込んでと、私を追いこんできている。


 まさか、莉緒から部長の話が出ると思わなった。

 莉緒は今週末まで営業部と広報部を行ったり来たりで、本格的に異動する来週までは会える機会があるけど、部長は先週の金曜日からお休みを頂いてて、このまま会社で会う機会は二度とない。










『日菜子先輩は ”このままでいいですか” ?』






 私は自宅へ向かう足をとめて、部長のマンションに向かって走り出していた。

 このままでいいわけない。

 部長と、このままサヨナラなんてしたくない。

 今動き出さなきゃ、今ちゃんと向き合わなきゃ、私と部長はなんの接点もなくなってしまう…!!


 部長には、たくさん助けられてきた。

 見守られてた時期、仕事を任された時期、翔真と悩んでいた時期、一人前になった今、ずっとずっと、私を支えてくれていたのは部長だ。


 翔真とのことを理由に、いつまでも部長への想いを誤魔化して、傷つくのが嫌でなかったことにしてた。

 それでも、会社に行けば部長に会える。

 なかったことにしても、部下として今まで通り大事にされる。

 そのことに、ずっと甘え続けて逃げ続けた私についに神様はしびれを切らしたんだ。

 

 完全に見放される前に、最後だからこそ、向き合ってあがきたい。

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