第45話
2人の頼んだ飲みもの、2人で食べるように頼んだ軽食がテーブルに全て運び終わってから、落ち着いて本題に入ることにした。
「異動の話、なんとなく予想ついてた」
「はい、正直……日菜子先輩と一緒にいるのが辛くて、異動願いを出しました」
「異動先の希望も莉緒が選んだの?」
「………」
気まずそうに口を開くのを躊躇していた莉緒が、ゆっくりと紡ぎ出したのは、聞きなれた人の名前だった。
「部長が…、私が異動したいことを伝えたときに、確実に異動できる部署に行きたいと話したら、柏木の実力なら営業補佐の仕事が向いてると思う、営業部に話をしてみるって言ってくれて…」
「部長が……そうだったんだね」
「私自身が営業するより、事務や補佐でサポートするのが大きな力になるって背中を押してくれたので、部長に任せました」
「うん、合ってると思う。部長はやっぱり、部下のことしっかり見てくれてるんだね」
「……異動先の営業部に翔真先輩がいますが、あの後から一切連絡はとってないし、付きまとうつもりもありません。……わたしの軽率な行動で2人を追いこんでしまい、申し訳ございませんでした」
頭を下げる莉緒を急いでとめて、顔を上げさせる。
「違うよ、謝るのは莉緒じゃなくて私だよ。早く、こういった機会を作った方がよかったのに、反対に莉緒を追いこんじゃうんじゃないかって躊躇しちゃって、莉緒と話ができる機会がなくなる前に話したかった」
莉緒が困惑した顔で私を見る。
私は膝に手を置いて、莉緒の目をしっかり見てから頭を下げた。
「ごめんなさい」
莉緒が私の謝罪を止めるけど、やめずに言葉を続ける。
「莉緒が、何度も私に言ってくれたのに、傷ついてるって信号出してくれたのに、私はいつもそれを無視して余計に莉緒を傷つけた。あの時、莉緒の言葉をちゃんと拾っていれば、ちゃんと聞いて、莉緒のことも翔真のことも、取り返しがつかなくなる前に解決できたかもしれないって、反省してます、後悔、してます。本当にごめんなさい……」
「……怒ってないんですか、軽蔑してないんですか?私は、翔真先輩の弱みにつけこんで、2人を同時に傷つけたんですよ…?」
「……正直、2人のあの場面を見た時、傷ついたけど、それは翔真と莉緒がそういう関係になってたからじゃなくて……莉緒と翔真を私が追いこんでしまっていた事実に、その時になってやっと気付いた自分から逃げちゃった……」
莉緒が言葉を失って何も声がでないのがわかって、少し間をおいて莉緒の様子が落ち着きを取り戻してから話を続けた。
「その時に、もう、翔真とちゃんと話合わなきゃいけないところまで来てたんだと思う。莉緒と翔真を傷つける前に、私が翔真と話が出来ていれば、今の莉緒と翔真の関係も変わっていたかもしれない、本当にすみませんでした」
私はもう一度、深く頭を下げた。
今度こそ莉緒は引かない!と強い気持ちで私の謝罪をすぐに辞めさせて、「違います……やっぱり、私が2人の仲を変えてしまった事実は大きいです…、日菜子先輩は、謝っちゃだめです」と、大きな瞳にたくさんの涙を抱え込んで、はっきりとした口調で諭した。
「……莉緒、ごめんね」」
どうしても出てしまうごめんねに、莉緒は「ダメ」と怒っていうけど、怒っても可愛い莉緒に笑いがこぼれちゃって、2人で一緒に笑ってしまった。
お互い涙いっぱい溜めこんでるのに、笑いあってる変な図が出来上がっていたけど、何も気にならない。
今、莉緒を過ごす空間がとても楽しくて心地いいから。
「お腹吸いたいしどんどんだべよー!」
やっと目の前の軽食たちに手を伸ばし始めると、わだかまりもすっかり消え、前より居心地のよくなった距離感に、実はわたしたち気が合う友達になれる?と感じてしまった。
「莉緒は翔真とこのままでいいの?」
「……いきなりぶっこんできますね」
「だって、莉緒の気持ちは純粋なもので、ほんと、申し訳なかったんだけど……ずっと片思いしてたんだよね?」
「……そうですね。でも、もうこれ以上翔真先輩を傷つける要素になりたくないし、困らせたくないから……」
「翔真は好きじゃない女とは寝ないよ、絶対」
私の言葉に飲んでいたカフェオレが動揺して少し零れたが、莉緒の反論をふせぐためにそのまま話を続けた。
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