第43話
そう言えば、元々仕事人間だった部長はさらに最近忙しそうで、部署にいないことも増えてきた。
必ず毎日顔を出して仕事のフォローや指示を出してくれてるけど、今までのように部長の姿を見かけることが出来なくなったのが寂しく感じた。
叶わない恋でも、近くで存在を確認出来るのと会う時間が減ってしまう今では心に来るダメージは変わってくる。
もうすぐ異動が決まった人の発表が始まる。
私は異動願いを出してないし、人事部からの連絡がない今の状況から引き続きこのまま広報部に入れると思うけど……、莉緒は、多分異動願いを出したと思う。
私は気にせず仕事が出来ているけど、様子を見る限り莉緒の方は辛そうで、私はそれに声をかけていいのか分からず、あれ以降仕事以外の話は一切していないし、お互いに接触も一度もない。
私は莉緒のことを憎んだり恨んだりと言った感情は一切持ってなくて、傷つけてしまったことは謝りたいと思っていたけど…、私から話していいか迷っていた。
もし、莉緒の異動が決まっていたら、もう話す機会がなくなる前にきちんと、話す機会を作りたいと思う。
そんなことを悠長に考えていた私は、休み明けの月曜日に自分の能天気な頭を鈍器で殴られる衝撃を受けた。
「部長が…海外転勤ですか…?」
目の前で発表された異動は予想していた莉緒の異動だけでなく、部長の海外転勤の異動まで入ってきた。
部長が最近部署に入れなかったのも、その準備や引き継ぎの対応に追われていたからで、二か月前には正式に決まっていたことだったらしい。
本当は一年前からこの話はあったけど、部署の中で心配事があったから、それが落ち着いて自分が抜けても大丈夫なようにに、異動を待っててもらったそう。
そう話す人事の言葉に浮かぶのは部長が私にしてくれた数々のサポートばかり。
部長はずっと私を、私が自覚するもっと前から考えてくれていたんだ。
海外転勤は最低でも三年、業績が好調で海外でのネット販売の売り上げもいいことから新部署を立ち上げて店舗への売り込みをかけていくらしい。
部長が任されたのは、その新部署を立ち上げて軌道に乗せること。
だから、最低でも三年、長ければ十年単位で済むことになるそうだと、目の前で事務的な話がどんどん進められいく。
ただ黙って聞くしかできない私は、正しい思考回路を保つことができたのかな。
もう、部長に会えない。
もう、部長の声が聴けない。
もう、部長の笑顔が見れない。
もう……、私と部長の接点がなくなってしまうんだ…。
部長の引き継ぎや異動準備は順調に進んでいて、年度末を持って海外に赴任するらしい。
もうあと1カ月もない。
私は何も気付かず能天気に過ごしてしまっていた。
今さらもう、あがくことなんて何もできない。
叶わなくても近くに入れたら幸せだったなんて、自惚れだった。
だって、私と部長を繋ぐものなんて何もないんだから。
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