第29話

「翔真先輩に見てほしいものが、ッあるんです…!!」


 私の必死に剣幕に、翔真先輩も感じ取るものがあるみたいで、一瞬で空気が張り詰めた。


 ピンっと張った空気感の中、わたしは自分の手に握られていたスマホの中に残した数枚の写真を映して、先輩の手に渡した。


 私と翔真先輩の心が砕ける音がなんでか聞こえてきて、ああ、私たち、ついに壊れたんだって、心の奥の奥の冷静な私が呟いた。


「翔真先輩、もう、苦しいです…苦しくて、おかしくなる…先輩、助けて…助けて…」


 ポタポタと溢れだす涙の粒が落ちる前に、私を抱きしめた先輩の服が受け止めてくれた。

 

 翔真先輩の涙が私の首を伝って背中に流れてくる。

 こんな時も先輩は涙を見せてくれない、泣いてる声を聞かせてくれない。

 こんな時でも、翔真先輩の目に映っているのは日菜子先輩なんだ。


 私は絶対、日菜子先輩に敵わない。


 心が壊れて正常な判断ができない私に手を引かれる翔真先輩には私が映っていなくても、今すぐ翔真先輩を手に入れたかった。

 翔真先輩と日菜子先輩がいつも一緒にいるベッドで、壊れた私が壊された翔真先輩を抱くんだ。


 小さくキスをする私に、なんの抵抗も見せない翔真先輩が辛かった。

 未だに流れる翔真先輩の涙を指ですくい取ると、先輩はきれいな瞳を閉じて、私をベッドに押し倒した。


 カーテンから少しだけ漏れる光が私と翔真先輩の背徳行為を映しだす。

 大好き翔真先輩と初めて交わっているのに、何の喜びも感じらないのに、体はとても素直に蜜口を濡らして先輩を受け入れる準備をしている。

 

 先輩の優しい手が好きだった、優しい瞳が好きだった。

 日菜子先輩だけに向けるオスの目線にドキドキした。

 優しい先輩の見せる独占欲に嫉妬した。

 私も愛されたい、翔真先輩の特別になりたいと焦がれた。


 違う形で叶った今日は、体だけが満たされていくだけ。


 キスを交わしても、舌を絡めても、翔真先輩の心は私にない。

 翔真先輩の手に体が大きく反応し、我慢しても漏れてしまう声は、翔真先輩の耳に無機質に届く音でしかない。


 それでも、こんな私に反応してくれる先輩は”男”である自分に嫌悪感を抱くのだろうか。


 私の中に入る前の翔真先輩は、一瞬だけ”私”をちゃんと見てくれて躊躇したのが分かった。


 こんな熱くなった体を放置しないで、このまま私と一緒に壊れよ?

 思いを込めて掴んだ翔真先輩の腕をそのまま頭の上で固定された次の瞬間、ずっと望んだ翔真先輩の熱く固く主張した欲に私の体は支配された。

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