第28話
昨日の夜のゲリラ豪雨が嘘のように晴れた土曜の朝、もちろん翔真先輩からラインの返事もなく、心配で先輩たちのマンションの近くまで来てしまった。
もちろん自宅に行くこともできないし、翔真先輩からの返事が来るまでお買い物でもしようかな、と好みのお店を探し始めたところで、ワンピースに身を包んだ日菜子先輩を見つけた。
帽子を深く被って表情を隠しているのは泣いたせいなのかな。
翔真先輩をずっと見てきた私の目は、顔を隠したって日菜子先輩だって気づいてしまうほど、あの人も覚えてしまっていたんだ。
ディスプレイに展示されたウィンドウのパンプスたちをずっと見つめる日菜子先輩に、少しだけ同情の気持ちが芽生えてきた。
日菜子先輩はただ純粋に仕事が好きだった、ただそれだけだったのに、ほんの少しのすれ違いと思いの違いで好きな人とこんなに気持ちが離れてしまうことは、本人にしたら私が考える以上に辛いと思う。
同情と一緒に生まれた少しの罪悪感も、私が翔真先輩に言わなかったとしても結果として2人はすれ違ったんだと言い聞かせて、自分を正当化した。
先輩の後ろで立ち止まった男性の後ろ姿に見覚えがあって、その人は静かに先輩を見守った後、覚悟を決めて声をかけたようだ。
「なんで部長…?」
心に芽生える”まさか…”の気持ちに一生懸命蓋をしようとするのに、一度気づいた違和感は私の都合のいい解釈をどんどん進めていく。
日菜子先輩の表情が読み取れない分、余計に私の不安を加速させ、2人が並んで歩き始めたときに、自分ではもう止めることができない衝動にかられていた。
部長の助手席に乗り込む日菜子先輩の写真を何枚もスマホに残して、私の足は2人の住むマンションに向かっていた。
気持ちが抑えられない、怒りが制御できない。
翔真先輩、助けて。
もう苦しくて、死んじゃうよ……
マンションの前まで行き、先輩にラインを入れてインターホン
を鳴らすとすぐに気づいて扉を開けてくれた。
私の様子を見てびっくりした翔真先輩が優しい声で問いかけてくれる。
「どうした?大丈夫か?なんかあった?」
先輩だって辛い時なのに、ちゃんと私を見て私のことを心配してくれるのに、日菜子先輩は、日菜子先輩は自分しか見えてないんだ。
傷ついてる私たちに気づいてなんてくれないんだ。
顔をあげた私の瞳からボロボロ涙がこぼれているのに気付いた翔真先輩は、すぐに私を引きよせておうちの中に入れてくれた。
「とりあえず入って、今飲み物いれるから」
――――グッ
私は何も言わず、リビングに向かう翔真先輩の服を掴んで引きとめた。
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