第27話

あの日も、翔真先輩が日菜子先輩を迎えに私たちのフロアに来ていて、私もいつも通り先輩をここから逃がそうと思っていた時だった。

 

 部長が自然に、これが日常のような違和感がない空気と動作で新作のパンプスを日菜子先輩に履かせていくシーンを見てしまった。

 

 それはまるでシンデレラにガラスの靴を履かせる王子様のような身動きとれないほど、時間が止まる光景だった。


 そして、普段なら日菜子先輩が選ばない色を履いた姿で鏡の前に立つと、いつもより断然きれいに魅力を引きだされた日菜子先輩がいて、それが余計に私の心を締め上げた。

 隣に立つ翔真先輩の腕を掴んで、急いでこの場を去ろうとしたのに、私は翔真先輩の腕を掴むことが出来ず、日菜子先輩に駆け寄る翔真先輩の背中を黙って見つめることしかできなかった。


 届かない、私では翔真先輩に届かない。

 日菜子先輩しかだめなんだ。

 なら、なんで傷つけるの…?

 なんで翔真先輩を、ちゃんと見てくれないの…?

 なんで、部長と仲良くしてるの…?


 日菜子先輩への怒りが頂点に達した夜だった。


 広報部のフロアに残された私と部長の視線は自然とあった。


「部長……、何してるんですか……」


 とても上司に向ける言葉や声音でないことはわかっていたけど、怒りを抑えることができなくて、こみ上げる涙を必死に堪えた。


「……何してんだろうな、」


 そうやって小さく笑った部長の顔もどうしてか傷ついていて、そこにいる部長は部長ではなく、”速見尚人”に感じられた。


 私は急いでエレベーターを待つ2人を追いかけ、乗る直前の先輩に恨みの言葉をぶつけたけど、日菜子先輩に届くことはなく扉が閉められ、やっと1人になった空間で私は声を殺して泣いた。


 ポタポタ落ちる滴がフロアの床を濡らしていった。














苦しい、苦しい、悔しい。


なんで翔真先輩じゃないとだめなんだろ。


私を見てくれる可能性なんてないのに。


日菜子先輩にもなれないのに。


いくら好きでも辛いだけなのに、

傷ついても嫌いになれないの。


翔真先輩が傷つくところも見たくないの。


大事にできないなら、

大切にできないなら、


翔真先輩と同じぐらいの愛を返せないなら、


先輩を解放してよ…


傷つけないでよ…



「好きなのに…ッ!!好きなのに…ッ」




 私を見てくれない


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