第24話
「海に来ると少しだけ肌寒くなりますね」
風が冷たく体の傍を突き抜ける。
今日は膝丈ぐらいの長袖ワンピースで来てしまったので、上着を持ってくるべきだったと後悔した。
すると部長がなんの躊躇もなく脱いだパーカーを後ろから被せて「着ろ」と言ってきた。
「いいんですか!?部長が寒くなっちゃいますよ」
「俺、結構体温高いの。こんな見た目なのにな」
なんて言うから笑ってしまった。
私は素直にお言葉に甘えて部長のパーカーを羽織ると、身長差もあるしメンズサイズということもあり、腰を軽く隠れる長さですっぽり埋まってしまった。
鼻を掠める部長の香水がいつもより強く感じられてなんだか嬉しかった。
部長もスーツの様子から鍛えられた体かもって思ってたけど、ラフに着たTシャツにジーンズが最高にかっこよく見えるスタイルだった。
一緒に浜辺をあるくと、潮の香りと海の音が私に安らぎをくれて、自然と会話を進めてくれた。
「私と翔真も幼なじみで、付き合ったのは私が大学2年生で、翔真が大学3年生の時でした。翔真は高校生のときから私を好きでいてくれて、わたしが翔真を異性として意識するまで待っててくれたんです」
わたしの会話に耳を傾けて聞いてくれてる部長の気配に安心して話を続ける。
「2年前に同棲を始めて、私も今年27歳になって、私も翔真も適齢期になって結婚式のピークも迎えて、同棲する頃からなんとなく結婚は意識し始めてたけど、ここ最近が本当に強く考えさせられる時期で…、仕事の向き合い方を変えてしまったんです」
部長が合わせてくれる歩幅でふたりの足痕が並んで作られていく。
「翔真がはっきり口に出していったことはないから、確実ではないんですが…翔真はわたしに結婚して専業主婦になって家庭に入ってほしいんだと思います」
私が続ける言葉に過剰な反応が見えないのは、やっぱり部長はわかっていたからなのかな。
「私はその願いを叶えるために、今のような仕事の仕方をしてしまって、……部長から企画書の話をもらったとき、すごくすごく嬉しかったんです」
この言葉に半歩前を歩いていた部長が足を止めて、複雑な苦しんでいるような表情で私と向き合った。
「わかってたんだ。ずっと、二宮が葛藤していることも、苦しんでいることも。わかっていて、どうしたらいいのか俺には答えを出してあげることができなかった」
今度は部長の言葉に私が耳を傾ける番。
私が部長の瞳を見つめると、部長は逸らすことなく綺麗な澄んだ瞳に不安げな私を映した。
「二宮は仕事が好きだった、だけど自然と距離を置くようになったのは少なからず田中が関係していると思ったし、俺が口を出せる問題ではなかったから、2人の決めた決断を見守ることにした」
「……はい、」
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