第22話

朝が弱い翔真はきっとまだ起きてこない。

 正直、今の翔真と向き合う勇気を私は持っていない。


 翔真の眠りを刺激しないように可能な限り部屋の中を片付け昨日着ていた私の服はゴミに出すことにした。

 洗濯物は明日回そう、そう決めて整頓された部屋を見渡してから、必要最低限のスマホと財布とポーチとタオルだけを入れたショルダーバックを持って玄関に向かった。

 

 春色のパンプスを履いて外に出る瞬間、何気なく振りかえると、昨夜だったら暗くて見つけることができなかったと思う新商品のパンプスが乱暴に置いてあることに気付けた。


 私は急いでそれを手に取り、ショップの紙袋に隠し入れたら、一緒に外に逃げ出した。

 昨日の夜の大雨が嘘のように晴天になった空が泣いた目に刺さって痛い。


 簡単に目を冷やして簡単にメイクをしてきたけど、どうしても目の腫れは残ってしまって、深く被った帽子で目元を隠してぶらぶら歩いた。


 ふと立ち止まったウィンドウの中で輝きを放つパンプスに目を奪われ、私はそこから動くことが出来なかった。


 あまりに真剣に見ていた私の横に人が立った気配でようやく意識を取り戻して、ハッと隣を見たら、黒のVネックTシャツにパーカーを羽織ってジーンズを履いたラフな部長が立っていた。


「え…部長…」


「なにやってんの?」


 帽子を深く被ってるせいで顔が見えないのか覗きこむ部長が、いつもと違ってセットしていない髪で、別人のような色気で胸がぎゅっと絞られた。


「なんとなく、目に留まってしまって……。こうやって魅力を引き出す展示方法をしてあげたいなって」


「……こんな時にも仕事のことなんだな」


 そう言った部長の声は少し悲しげで、思わず顔が見られることを忘れて見上げてしまった。

 隠そうとしてもだめだった、私の顔を見る前から、部長は泣きはらした目に気づいていた。


「昨日、大丈夫だったか?怒られた?」


「……はい、大丈夫です。翔真が何に怒っているかはさっぱり分からなくて逃げてきちゃったんですが、落ち着いたら、ちゃんと話しあいたいと思っています」


 きっと話せば分かりあえる。

 翔真と私の絆は簡単に切れるものじゃないって信じている。

 ただ、今は…少しだけ外に逃げ出したかった。


「落ち着けそう?」


 部長はいつも、私を救いあげる言葉をかけてくれる。

 仕事でも、プライベートでも。

 だから安心感を感じてしまうんだ。


「――――………ッ」


 私は言葉にすることが出来ず、唇を噛み締め涙を堪え、顔を横に振って”無理です”と意思表示を送った。



「じゃあ、ドライブでも行く?」


「…ッ!!行きたいです!!ドライブ!!」


 食い気味に答える私に部長はまた吹き出して笑った。

 部長の笑顔はやっぱり新鮮で、優しい顔に私も思わず笑みがこぼれた。


 前を歩く部長の背中についていき、車内まで綺麗で良い香りのする車に乗り込むために後ろの席を開けようとすると、「ドライブなんだから前乗れよ」と部長が当たり前のように言う。


「え、でも……」


 私は奥様のことを気にしているのに、当の本人は何にも感じておらず、私もせっかくの機会なので鈍感なフリをして助手席に乗り込んだ。


 その瞬間、小さくなったカメラ音に気づかなかった私はそのまま部長の運転する車でドライブに行ってしまった。



















「………裏切り者……」


私はいつも、莉緒の言葉を見逃して、


傷つけていた

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