第18話
食べ終わった食器を下げて洗い物を終わらすと、部屋の掃除をしてくれていた翔真が手を止めてスマホを確認していた。
その表情が少し険しいように見えたけど、「翔真」と声をかけるとすぐにいつもの翔真に戻ったから気のせいだったと思う。
「掃除やってくれてありがとう!私、今日はもう行くね」
「りょーかい。俺は友達にライン返してから行くわ」
最後の支度を終えて玄関まで向かう私と一緒に来てくれた翔真と行ってきますのキスをして、いつもより早く離れる翔真の温もりに寂しさを感じながら、私は先に会社に向かった。
いつも翔真と歩く道が今日は1人のせいか少し心細かったが、新しい仕事へのワクワク感が私の足を軽くさせた。
昨日は翔真とセックスして寝落ちしちゃったから、会社についてからやりたい企画をとにかくかき出しておきたかった。
いつも通り警備員さんに挨拶をしてICカードの社員証でゲートをくぐりエレベーターに向かうと、ちょうど速見部長の出社と被った。
「部長、おはようございます!」
「おはよう、今日はいつもより早いんだな」
部長の隣に並んで一緒にエレベーターを待つ。
「昨日は寝落ちしちゃって企画書のアイディア出せなかったので出社してからやろうと思って…」
「昨日は激しかったんだな」
「……はい!?ぶ、部長!セクハラです!部長のような硬派なイケメンがそんな下品なこと言ってはだめです!!」
「昨日エレベーターで一緒になった時の田中の様子がおかしかったから、なんか敵意を食らったような…」
「え…それって嫉妬ってことですか?ないないないですよ!部長が愛妻家なのは皆知ってますから」
私が話し終わると同時にエレベーターが到着し、一緒に乗り込み3階にある私たちの部署に向かう。
「新商品のパンプス、市場調査の声が凝縮された女性のためのパンプスですね。足を綺麗に見せてくれて品があって、足によく馴染む形にクッション、ヒールの高さも歩きやすさと美脚を計算された黄金比。就活生も社会人もデートでも履いていける自慢の一足を、これから私の手で広めていけるのが、嬉しいしやりがいを感じます」
「広報部のPR、広報活動はこれからの商品の見方を決める大事な要だから、きちんと戦略を練ってたくさんの人が手に取ってくれる商品まで育ててあげよう」
「はい!ビシバシダメ出ししていい企画書まで引っ張ってください」
それから私はすぐにその企画に取り掛かり、美里先輩や他の先輩たちに企画書の内容を確認してもらったりアドバイスをもらいながら自分の求める形に繋げていった。
家に帰る時間はなるべく遅くならないようにと意識していたのに熱中しすぎて、部長に「もう帰れ」と言われるまで時間を忘れていることが何度もあり、部長となんとなく一緒に帰る回数が増えていった。
自然と会話が増えるけど、私の頭の中を占める今の仕事のことばかり考えてしまうので、帰りの会話さえも”仕事”
あまりの熱中ぶりにあの口数少ないクールな部長が口元押さえて笑い出してしまうぐらい、私は仕事の虫になっていたらしい。
今までセーブしていた仕事がこんなに楽しいこと、やりがいを感じてしまったこと、反動で目の前の仕事に夢中になりすぎて、翔真がどんな表情をしていたかさえ、私には見えなくなっていた。
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