第12話
比較的広い社食スペースも今日は人が多いため、少しガヤガヤと周りの音が強く感じるテーブルで、隣に座って一緒に定食を食べていた翔真先輩から音が消えた。
私が数秒前に翔真先輩に言った言葉が原因。
『日菜子先輩、新しい企画を任されてて、すごくはりきって部長と話してましたよ。今もお昼なのに会話が弾んでて…』
普段の会話の流れで明るいトーンを落とさず話したはずなのに、一瞬でこんなに翔真先輩を地獄に突き落とすのは日菜子先輩しかいないんだ。
やっと口を開いた先輩の目は、少し歪んで見えた。
傷ついた表情を隠せずにいる。
「莉緒、まじ…?」
「はい。迷う様子なく担当者に選ばれて喜んで引き受けていましたよ。今までは仕事よりも翔真先輩との将来を考えてセーブしていたと思っていたのに、びっくりしちゃって…」
「ほら、でもさ、日菜子は仕事好きな方だと思うし、キャリアだって積みたいだろうし、すっげーチャンスだと思う、し」
「…翔真先輩は、日菜子先輩に家庭に入ってほしいんですよね」
私は先輩の必死に取り繕う気持ちを無視して確信をついた。
だって、日菜子先輩はその気持ちに気づいて裏切ったんだから。
「結婚して専業主婦になってほしい、自分だけを見てほしい、家族のためだけの日菜子先輩になってほしい、これが翔真先輩の本音ですよね?」
「…だけどさ、俺の勝手な独占欲だし、実際に日菜子に言ったことなんてないし」
「日菜子先輩、気付いてますよね?翔真先輩の気持ち…」
「………」
押し黙ってしまった翔真先輩に、心臓がどくんどくんと痛みだして罪悪感に押しつぶされそうになるのを必死に堪えて、最後の言葉を紡ぎ出す。
「翔真先輩の気持ち、日菜子先輩は踏みにじったの…?」
翔真先輩の答えを聞くことも、それ以上傷つく翔真先輩の顔を見ることもできず、私はその場から逃げだした。
翔真先輩より”仕事”を選んだ日菜子先輩を見た瞬間に、私はどんなことをしても、悪女になってもいいから翔真先輩が欲しいと思った。
だから、今私の胸が痛むのも泣きたい衝動になるのもおかしんだ。
好きな人を傷つけてでも、私は好きな人の心を手に入れるんだ。
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