第11話

私が言ったことを真剣に取り合わず平然と部長と会話をしている日菜子先輩をもう一度目を向けてから、翔真先輩がいるであろう社食へ向かう。


 今日は偶然を装って隣をキープする方法では間に合ない、確実に日菜子先輩の口から新しい仕事を受けたことを話される前に、私から翔真先輩に伝える。


 スマホを取り出し、翔真先輩に「今日も社食に行きます?」と探りのラインを入れると、すぐに「いるよ。莉緒も今日は社食?」と返事をくれて、私の顔は思わずほころぶ。


 「はい、一緒に食べてもいいですか?」


 すぐに来た返信は先輩らしいスタンプで了承を知らせる返信だった。私は逸る気持ちを抑えて先輩の待つ社食へ向かった。

 

 私は先輩とのやりとりでこんなに幸せになれる。

 先輩に会える約束ができて嬉しくて早足になる気持ちが止められない。

 なんで日菜子先輩は、これを当たり前に感じてしまうの…

 翔真先輩が隣にいることが、”当たり前”なはずないのに…。






 社食に入ると今日は人が多い日で、先輩を見つけられるか心配になったのに、先輩は入口すぐ近くで私が来るのを待っていてくれた。


「翔真先輩…っ」


 私の声に近くまで来ていたことに気づいてくれて、「そんな急がなくてもよかったのに」と笑って迎えてくれた。


「北川先輩たちは、大丈夫ですか?」


「うん、先に食べてるって。俺はすっげー空腹ってわけじゃなかったから莉緒と並べばいいかなって思って」


「あ、ありがとうございます…」


 未だに莉緒と呼んでくれる先輩に照れてしまって顔を俯かせてしまう私に気づかず、先輩は「早く並ぼうぜ」と手を掴んで列に向かって歩きだしてしまう。


 翔真先輩、わたし、先輩の好みになりたくて、日菜子先輩みたいに髪を伸ばしているんです。休みの日は先輩みたいに毛先を巻けるようになったんです。

 だけど、先輩との違いを見せたくて、職場では束ねてしまうんです。

 話したいこと、たくさんあるんです、気付いてほしいこと、たくさんあるんです。


 だけど、私を”可愛い後輩”としか見ていないから、こうやって簡単に腕を掴んで歩けるんですよね。

 私は、”可愛い後輩”以上にも以下にもなれない。


 一緒に列に並んだ先輩を見上げれば、162㎝ある私は女性の中で大きいはずなのに先輩の顔は遠くに感じる。

 身長が大きい上に足が長くて顔も小さいからだ。

 先輩、こうやっていつも盗みしている私の視線に気づかず、今の先輩の頭の中にいるのは、私たちの部署でランチをしている日菜子先輩のことでしょ?








 



 ねえ先輩、こっちを向いて


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