歯車 two

先輩の愛する”二宮日菜子”

第10話

『日菜子に言えないんだ、はっきりと』


 『言ったら嫌われそうで、余裕がない俺を知られたくないのに、言葉にせずに日菜子に感じとらせる自分が一番余裕がなくてダサい…』


 そう話す翔真先輩の気持ちを日菜子先輩は知っているのか、日菜子先輩しか翔真先輩をここまで弱らすことも、傷つけることもできないことを知っているのか、…私はあの人が憎くてたまらない。


 翔真先輩に初めて出会ったのは大学1年生のとき、講義の場所が分からなくて困っていた私を見つけて声をかけて助けてくれたのが翔真先輩だった。


 他の男たちと違う下心のない澄んだ瞳に引き込まれ、それから先輩を目で追っていた。

だけど、先輩の視線の先には当たり前のようにいつも二宮日菜子がいた。

 なんで?なんであの人なの?

 私の方が正直美人で大人で先輩に釣り合う女性なのに、先輩はあんなふわふわした外見の先輩が好きなの?


 少しでも先輩の目に留まるように服の系統や髪形も先輩にしか分からないように寄せていった。

 日菜子先輩よりも私の方がいいでしょ?って見せつけたかったのに、翔真先輩は私を可愛い後輩以上にみてくれなかった。


 今も、こうして飲み会の席で隣の席をキープできるのも、わたしが公認の可愛い後輩で、世渡り上手な私が絶対に先輩への好意を皆の前に出さずにここのポジションをキープしているから。


 私を見てほしかった、好きになってほしかった。

 いつもいつも先輩の心を占める二宮日菜子が憎かった。






 そして、今日ほど憎いと思った日はない。


 朝礼後の部長と2人で話しをしていた日菜子先輩は嬉しそうに、鮫島先輩たちのいる会議スペースに入ると、新商品の企画担当を任されたと報告していた。


 その時の日菜子先輩の顔からは翔真先輩のことが消えていて、部長に任された仕事のことしか考えてなかった。

 

 私は頭を鈍器で殴られたような痛みと衝撃で視界が歪んでいった。


 なんでこんな人が愛されているの?

 翔真先輩の気持ちをなんでないがしろにできるの?

 こんなに愛されているのに、大事にされているのに、

 それを当たり前のように受け取って踏みにじることができるの?


 翔真先輩から受け取る愛を同じ以上に返せないなら消えて…!

 

 翔真先輩が、いつも大事に思うのは、大事に考えてるのは、守りたいのは、あなたなのに…!!あなたが好きで好きで苦しいのに、なんであなたは簡単に大事な人を傷つけられるの…!!


 今まで、今まで何度も心の中で日菜子先輩を憎んできた。

 それでも、翔真先輩の気持ちを考えて大好きな仕事を我慢していた姿勢を評価していたのに、もう許さない。


 何度、何度翔真先輩の気持ちを踏みにじれば気が済むの!?

 何度翔真先輩を傷つければ気が済むの…!?

 こんな女に渡したくない…こんな女が翔真先輩を幸せにできるはずない…


 私は初めて敵意として日菜子先輩に「翔真先輩」への好意をぶつけた。絶対許さない。

 私に歯車を回させた部長も許さない…!!

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