第8話

状況を理解した私はフリーズした後、この先のことは落ち着いて考えることにし、美里先輩たちと企画書をまとめ上げた。


 長い時間の話し合い、修正が終わりやっと形がまとまり部長に提出できるまで仕上げた時には12時直前になっていた。


「部長への提出はお昼休み終わってからにしようか」


 美里先輩の提案に全員賛同して会議スペースを片づけ始めて、各自お昼休みを終えてからもう一度集合し、見直ししてから提出することにした。


「日菜子は今日もお弁当?」


「はい!美里先輩は今日どうしますか?」


「今日は有也が内勤らしいから一緒にランチ行ってくるよ。翔真見かけたら声掛けておく?」


「うーん…やっぱり自分の口から話さないとだめだと思うので、様子見て伝えようと思います。美里先輩、ありがとうございます。デート楽しんできてください」


「美味しいものねだってくるよ」


 美人はウィンクもよく似合うな~と見惚れているうちに先輩は手を振りながら営業部にいる彼氏様の元へ向かっていた。

 翔真も今日は内勤だと言っていたから皆と社食で食べているんだろうな…と考え事をしながら自分のデスクに向かう途中で、翔真好みの香水の香りが鼻を掠めて意識が戻された。


 今、わたしの横を通り過ぎたのは私より背が高い女子力が高くて見た目からしっかりした美女、1つ後輩の柏木莉緒だ。


 莉緒は何となくだけど、服装や髪形、雰囲気が私と似ているような系統で、それでも私と比べられないぐらい可愛くてきれいでおしゃれで。


 なんとなく系統が似ているかなと感じるのは私と翔真ぐらいで、他の人は「全然違う系統だよ~!日菜子の方がふわふわしてて頼りないよ」と笑い飛ばされて終わったんだ…。


 莉緒は大学時代から一緒なんだけど、仲がいいと感じたことが正直なくて、どっちかって言うと嫌われていて、莉緒は翔真に好意を抱いているような気がするんだけど…。


 翔真がそんなわけないじゃんと笑い飛ばして真剣に取り合ってくれないし、莉緒から直接言われたわけじゃないし、確信もなく安易に聞いていいような質問でもないから、私も宙ぶらりんで様子を見ている。


 莉緒の香水の残り香と後ろ姿に見とれていると、急に莉緒が立ち止まり振りかえった。

 見ていた罪悪感からびっくと反応してしまった私に射抜くような強い瞳で莉緒が見つめながら口を開いた。


「日菜子先輩は仕事と翔真先輩、どっちが大事なんですか?」


「…え、莉緒…?」


「翔真先輩が日菜子先輩に望んでいること、気付いてますよね?」


「…莉緒がなんでそんなこと知ってるの?」


「先輩が他部署の人との飲み会の参加を控えているから知らないと思いますが、広報部の他部署との交流は大事にしているんです。もちろん、営業部との飲み会だってあるの知ってますよね?」


「し…」


 ”らない…”


 私はその言葉を最後まで言えなかった。周りが私に気を使って飲み会のことを話さないようになったのはいつからだろう。

 私はこの部署にいて、皆に気を使わせて仕事も勝手にセーブして、存在意義や仕事をさせてもらう権利はあるのか、頭の思考が鈍る音がした。

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