第7話

「今の仕事が落ち着いてからでいい。鮫島には俺から話を通しておくから、二宮の補佐が落ち着いたら新しい企画に取り組んでほしい。今回の企画には俺がフォローに入る」


「はい、ありがとうございます!」


「鮫島とずっと一緒にやってきたら流れや進め方は分かっていると思うが、とりあえずは自分が思うままにやりたいことをリストにあげて提出してほしい」


「はい、かしこまりました。よろしくお願いします!本当に本当に嬉しいです!!今の仕事、もうスピードで頑張って終わらせます!!」


 部長にもう一度一礼したらすぐにデスクに戻り、大事に抱えていた書類をファイルに締まったら美里先輩が仕事をしている会議スペースに向かって補佐に戻った。


 広報部のフロアにいくつか作られた開放的な会議スペースはいくつかあり、全て中のイスやデスクが違うもので、色も形も様々、気分で変えて楽しめる会議スペースでデスクの真ん中にはお菓子と飲み物の用意もある。


 こんな感じの会社って中々ないと思う。

 働いてる身からしても理想そのもので、社長や幹部や部長たちには感謝しかない!

 だから本当はもっと真剣に仕事に取り組みたかった。

 速見部長にまだ見放された訳じゃなくてよかった。

 速見部長が後悔しないように、選んでくれた速見部長に応えられるように、仕事、もっと頑張りたい。




――――この時の私は仕事に真剣に向き合える喜びと、速見部長に見放されていなかった安心感で、この後大きな変化を与えてしまう翔真との関係なんて一切見えていなかった。


 速見部長しか見えてなかった…私は、最低だった。


「遅れてすみません!!」


 挨拶をしながら美里先輩のいる会議スペースに入り隣のイスに腰掛けると、お菓子を食べながら雑談で今任されている書類を読みあげていた先輩たちが「おかえりー」と声をかけて迎え入れてくれた。


「部長と何話してたの?」


 黒髪の前下がりショ―トボブがセクシーな鮫島美里先輩は整った顔を惜しげもなく私に向けた。

 肌もきれいでメイクもナチュラルなのににじみ出るフェロモンにノックアウト寸前の私はなんとか口を開く。


「前に美里先輩と市場調査を行ったパンプスが新商品になることが決まって、そのPRと広報企画の担当を任されました」


 自分の口から言葉にすると自然と泣きそうになっている自分に気づいて少し俯いてしまうと、美里先輩がガッと肩を掴んで自分以上に嬉しそうな笑顔と声色で「やったじゃん!!」と喜んでくれた。


 その場にいた同僚たちも心の底から

「よかったね!」

「さすが部長!!いい仕事を任せたね!」

「やっとだね日菜子、本当によかったね」

 と喜んでくれて、恵まれた環境で仕事ができているありがたみをまた実感できて、絶対成功させようと心に決めた。


 一通り喜び終わった私たちに冷静になった美里先輩が爆弾投下した。


「ねえ、翔真はそれ、反対しない、よね?」






 場が凍るってこういうことを言うと思います。

 すっかり翔真のことを忘れていた最低な私は事態を急速に理解するのです。

 そして、この会議スペースの様子をずっと見ていた1つ下の後輩”柏木莉緒”が歯車の加速をさせていく。

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