翔真がわたしに求めること

第5話

翔真が私を長く好きでいてくれたことを知ったとき。

 

 私のことを大事に思うから、私のペースで関係を築いていけるように待っていてくれたことを知ったとき、


 大きな愛に包まれた気がしたんだ。


 すっごく嬉しくて、わたしも同じぐらい翔真に愛を返していきたい、翔真のことを大事にしたいと思ったの。

 

 翔真が私に求める容姿も性格も何もなく、不満もないお願いもない。

 

 ただ一つ翔真が求めるのは、私が翔真を好きでいること。


 たったそれだけで、私が翔真を不安にさせる要素を持っているなら、それをなくすことだってしようと思った。

 

 そう思っていたのに、大学を卒業して今の会社に就職して、広報部に配属されて仕事を始めたら、自分が思っている以上に働くことが楽しかった。


 慣れないうちは大変なこと辛いこと泣いたことだってあったけど、辞めたい働きたくないと思ったことがないのは、この会社のおかげだと思う。


 今の会社に就職できたのは奇跡だと思うし、今の部署に配属されたのも幸運だったと思うの。


 本当はもっと仕事を任されたいし成長したい、スキルアップをしたいと思うのに、私にはそれができない。


 本当は薄々感じていて、仕事が楽しくなるほど翔真と溝が生まれてきた気がして、翔真が同棲をしたいと話した時にはなんとなく覚悟をした。


 ただ一緒にいる時間を増やしたいんじゃない。


 私が翔真を異性として見るまでの間、翔真は待たされていたんだ。


 私のために待っていたんだ、それまで、他の人と触れ合う私と見守ってきたんだ。


 翔真を不安にさせるのは過去の私。


 翔真の気持ちに気づかず他の人と恋愛をしてきた私。


 私の自意識過剰かもしれないけど、翔真は私が他の男性の目に映るのをあまり良く思っていない。


 仕事をしていたら部署同士の飲み会も付き合いも増えるし、翔真の知らない時間も出来てくる。


 仕事をしていたら必然的に交流が増えるのは自然のことだけど、翔真はそれに傷つけられていた。


 翔真が私に望むことはたった一つ。それすら叶えなかったら、翔真がこんなに愛してくれるのに私はそれを返しきれない。


 私だって翔真が大好きで一緒にいたいし傷つけたくない。


 同棲をきっかけに仕事の向き合い方を変えてしまった。

 

 翔真が結婚したら専業主婦で家に入ってほしいと思っていることを空気で感じ取るようになって、わたしも空気で翔真に分かってるよ、伝わっているよ、大丈夫だよ、と答えるようになったけど、正確な言葉をもらったわけでもなく、私も正式に答えたわけでもない。


 この環境が首を絞めるようにぎりぎり痛んで苦しんだ。

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