第3話

きっとこれからも翔真に守られて敵を作らず世の中に馴染んでいくのが正解なんだと思うし、それが幸せだと心から思うのに。

 

 26歳の誕生日を過ぎた辺りから結婚式のピークが始まり、同時に翔真も適齢期に入って結婚式ピークが重なって自然と意識するようになった。


 27歳になった今は時々見えない空気の圧を感じ取る。


 それは翔真が発信させているわけではなくて、私の心にひっかかるものが喉から先に出て来ないから、ずっと苦しくて、翔真との結婚でセットに考えてしまうんだ。


 会社のビルに近付くにつれて自然と繋いだ手は離れて気持ち少し距離を開けて歩くようになる。


 いくら公認で付き合ってる私たちでも会社の人たちが出社する朝にプライベートがっつりの出社は好ましくないと自覚があるので、適度な緊張感と距離感は保つようにしている。


 翔真が仕事用にプレゼントしてくれたA4のパステルピンクのブランドバッグからICカードの社員証を取り出し、警備員のおじさんに挨拶をしてゲートをくぐり、翔真とここで別れる。


「翔真、今日も頑張ってね!」


「日菜子も頑張れよ」


 お互いに手を振って自分たちの部署へ向かった。


 私は3階にある広報部の配属で、翔真は6階にある営業部の配属。


 元々同じ部署を希望していたわけではなく、自分たちの適正にあった配属に満足しているし、今の職場環境に満足している。


 翔真も営業職が適正だと私も感じるぐらい、成績もよく先輩たちと切磋琢磨頑張っている様子を周りの人や同期から聞かされている。


 3階で止まったエレベーターを降りて透明のガラスで出来た部署の扉を開けると、華やかで自然を感じられる落ち着く空間が広がった。


 自分たちの部署は女子の比率が高いこともあり、デスク周りは華やかで、元々女性に向けた商品展開をしている会社ということもあり、リラックスできる休憩場所や大きな観葉植物が置かれていたり、圧迫感を感じないフロアになっている。


 フロアの部署によって部屋の配置や雰囲気は変わってくるが、どの部署も圧迫感がなく風の通りが良い気持ちのいい空間で出来上がっている。


 離職率も少ないし、仕事も多忙期は大変だけど苦痛に感じることがない働きやすい会社なの。


 それを可能としたのは社長たち幹部の努力と、部署を束ねている部長たちの力だと思う。


 わたしの部署の部長はまだ34歳の若手で、黒髪に細身のスーツがよく似合うイケメン高身長で、仕事もできるし信頼も勝ち取っているスーパー上司で女性からも男性からも慕われている。


 そんなすごい上司が独身なわけがなく、奥様のお話は滅多にされないが、左手の薬指にはいつも必ず結婚指輪がはめられている。


 わたしも入社して配属されたばかりの頃は、翔真の存在を忘れてしまうぐらい速見部長の整った顔にスーツが似合う体型に、仕事が出来て完璧な姿にぽーっとしてしまうことが正直あったけど(翔真には絶対秘密!)。


 一緒に仕事を続けていけば仕事のON/OFFがしっかりしていて愛妻家の部長は「完璧な上司」の立ち位置から絶対離れなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る