第65話

隼人の手が優しくわたしの頭をなでた。


「ひなは、なんでいつも、じぶんを責めるの?」


「ぅ…っ…」


「ふつうに恋しただけじゃん。恋愛しただけじゃん、なのになんでひなが悪いって責められんの?」


隼人の手が優しくて、わたしを守ってくれてるようで、なにも答えられず、ただただ安心の涙を流した。


「自業自得はまわりが判断するよ。ひなはそんなこと考えなくていいんだよ。しかも、ひなにそんな言葉は無縁だよ。悠真見てみろよ、まじ最低だろ?」


「っ…」


「悠真を許せなかったひなが悪いんじゃない。許せないほど傷つけられたんだ、ひなは悪くない」


「…なんで、わかったの…?」


「じぶんのことばっか責めてたらいいように利用されんぞ?俺は、ひなが悠真を許してたらぶっとばしてたと思う、悠真を。大事な人を大事な奴に傷つれられるってほんと辛いよ」


ゆっくりと顔を覆う両手をほどいて前をみると、苦しそうな顔で笑う隼人がいた。


「悠真のときもただ恋をしただけ。今だって全力で人を愛しただけだろ?誰も悪くねえよ。ほんとは、その縁が続けばよかったよな」


隼人はいつも、わたしと違う視点で、わたしのことをぐいっと引き上げてくれるんだ。


「こんなに苦しむぐらい、好きだったんだな、…今でも」


「…うん、好き…"だった"、ほんとに好きだった、好きで好きで好きで、悠真以上に好きでいるのが辛かった」


「それは悠真が悔しがるな、また、出会えるよ。悠真以上に好きになれた奴に出会えたように、今度はそいつ以上に好きになる奴に、ひななら出会えるよ」


店長あのね、わたし一人のときには、ほんとにこれが恋かどうか答えることができなかった。


店長に聞かれたときに、本気で好きだよって即答する自信がなかった。


じぶん一人では自信を持てないのに、周りの声を聞いてやっと自信を持てる。


苦しくて苦しくて辛くなるぐらい、店長が好きだったよ。


もう大丈夫だと思ったけど、すぐに辛くなっちゃうよ。


仕方ないんだ。


だって、それ以上に店長が好きだったんだから。


こんなに辛くなるのも忘れられなくて苦しむのも、本気で店長を好きだったから仕方ないんだ。


「誰も悪くないと思うんだ、恋が終わるときって。どっちも悪くなくて、それが運命だったと思う。いくら仲が良くてお互いのことを大事に思ってても、歯車が狂うときは狂うし、永遠がなくなるときだってある。それはもう、誰のせいでもない運命だよ」


そう思ったら楽じゃない?


優しく笑い掛ける隼人に、わたしもそうだね、と今日いちばんの笑顔で答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る