第63話
朝食も食べ終わり、ソファーに座ってぼーっと部屋を眺める。
「天気もいいし、外に出ようかな」
今までは引きこもって殻に籠って休む状態だったけど、少しずつ前に進む準備ができてきたのかも。
ベージュのダッフルコートに紺のストールをぐるぐる巻いて、ウォークマンと鍵だけもって部屋を出た。
ウォークマンと揃えたビビッドピンクのイヤホンを耳にはめたら、いつもより足取り軽くマンションの階段を降りた。
耳に流れる音楽は、今まで店長を思って聴いてきた曲や思い出の曲ばかり。
聴こえてくる音楽は優しくわたしを慰めて、思い出される記憶がわたしの心を突き放す。
こうやって、思い出を記憶へと変えていつか忘れていてくのかな。
曲を聴きながら適当に歩いていたら、急に左腕を捕まれて後ろへと引っ張られた。
ーーーーー店長……!?
「っ……」
「ひな、なんつー顔してんの」
わたしの視界に移ったのは店長でも悠真でもない、悠真の幼馴染みで親友の、隼人だった。
「隼人……、久しぶりだね」
「久しぶり。悠真と別れたのは知ってたけど、俺とまで連絡とらねえってひどくね?」
「……、悠真に悪い気がして、」
「…確かに、…だけど、あいつの自業自得だよ」
そうやって明るく笑う隼人は前と変わらず、わたしも悠真もどっちも大事にしてくれる隼人だった。
「今時間あんの?せっかく会えたんだしどっか入って話さねえ?」
「うん、時間あるけど…隼人は?どっか行くところとかじゃ」
「ひなたのとこ行く予定だったんだよ」
「……え、わたしのとこ?」
「なんかさー悠真がひなの夢を見たって大騒ぎで、俺は会いに行けないから隼人行けー隼人行けーってうっさくて。昔から悠真は変な勘があるし、ひなたも悠真と似てるところあるしで、来てみた」
「…夢、見たんだ、悠真」
「もうそれで大騒ぎ!お互い推薦で大学決まってるしゆっくり寝ようと思ってたのに叩き起こされてまじ最悪」
「隼人には災難だったね」
二人の様子が浮かんで思わず笑ってしまった。
「ひなが泣いてる、って焦ってたよ悠真。とりあえず、泣いてなくてよかったよ。まさかふらふら散歩してるなんて思わなかったけど」
「ちょっと落ちてたんだけど、やっと外に出れるようになったの」
「じゃ、ゆっくり聞きたいことがあるので行きますか」
自然と掴んだ左手を引っ張りながら隼人はゆっくりできそうなカフェを探しながら歩きだす。
悠真も、同じ夢を見たのかな。
わたしも悠真も変な勘があって、ときどき二人の第六感が繋がることもあった。
まさか、こんなところで繋がることなんてあるのかな。
心配かけたのかな。
悠真は、悠真が夢の中で言った言葉はわたしの願望じゃなくて悠真の本心だったのかな。
わたしは、夢の中でも悠真を傷つけた?
うんん、もうとっくにわたしのことは過去になったかもしれないのに、ひどいうぬぼれだ。
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