第62話

『……っ』


『不器用だな、ひなの好きな人って』


『っ…うっ…ぅ…』


声を出して泣きたくなった。


全部わかってて、全部見えてて、全部、本物だった。


ーーー不器用な人だった。


生きにくい人生だろう。


早く恵里さんの元に戻ればしあわせになれるのに、幸せに手を伸ばせない人だ。


今度こそ恵里さんの手を掴んで、絶対離さないでね。












目が覚めると見慣れた天井で、カーテンの日差しが部屋へと入り込んでいた。


いつの間にか寝てしまっていたらしい。


部屋の中の状態は昨日のままで、洋服が散乱していたり飲みかけのコップがそのままになっていた。


今日は土曜日。


いつもだったら焦って部屋を片付けながら洗濯を回したり朝食の準備をするけども、今日は大学が休みなので、少しの間ぼーっと部屋を眺めた。


とてもリアルな夢だった。


さっきまで悠真と本当に会って話していた感覚で、目元には泣いたばかりの新しい跡が残っていた。


気持ちも少しだけ軽くなっている。


とりあえず、散らかった部屋を片付けてシャワーを浴びよう。


少しずつ前を向いて歩いていかないと、わたしも店長も幸せになれない気がする。



――――自分が選んだ道を後悔しない。



今までだって私はそうやって道を選択してきた。


だから今回も、絶対後悔しない。


シャワーを浴びて身支度を整えたら心も身体もすっきりした気分だった。


朝食をゆっくり食べるために、先に洗濯ものを干してしまおう。


カーテンから入り込んでいた日差しどおり外の天気は快晴で、1月の寒さが風になって刺さるけど温かさも感じる陽気だった。


このまま部屋の掃除も済ませてしまおうと、いつもの掃除習慣を終わらせてからようやくキッチンへと足を運んだ。


いつもは食欲旺盛なわたしだけど、今回は精神的にきたみたいで食欲が落ちていた。


夢の中の悠真のおかげか、いつもよりお腹が空いていてモリモリ食べれる気分!


食欲が落ちても栄養をしっかりとれるように、食パンとサンドイッチ具材を常備しておいた。


今日はいつよよりもボリューミーに作ろうかな。


冷蔵庫からタッパーを取り出し、まな板の上に並べた食パンでサンドイッチを作っていく。




『店長がつくるサンドイッチって特別美味しい気がする』


『そうか?普通のものしか使ってねえんだけど』


『すっごい美味しい』


『ふっ…本当に美味しそうに食うよな、ひなは』


珍しくお休みだった店長と食卓のテーブルを囲んで一緒に朝食をとる。


わたしの大好物になった店長特製サンドイッチを頬張るわたしを、優しい目で盗み見する店長。


店長にサンドイッチの作り方を教わることができなかった。


店長も教えることをしなかった。


だって、これからも一緒にいると思っていたらから。


離れることなんて想像していなかったから。


店長のサンドイッチを思い出しながら見よう見まねで作るけど、いつも店長の味には叶わない。


それでも、いつもより美味しく食べることができた。

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