きっと全部がほんもの。
第61話
バイトを辞めた後、全部を整理しようと思って蔵永くんと、迷ったけど秋人と沙良ちゃんの連絡先も消去した。
店長を思い出して泣くのはいいけど、戻りたくなるのは絶対避けなきゃならない。
じゃないと、別れたことに意味がなくなってしまう。
恵里さんは私への罪悪感が強くなってしまったのか、あの日以降連絡をとらず、わたしの気持ちを優先してくれた。
恵里さんが罪悪感を感じる必要ないよ。
悪いは恵里さんじゃない、恵里さんから逃げた店長と裏切ったわたしだよ。
別れた今も、まだ、恵里さんと連絡をとれる心境じゃなくて……店長やバイトを辞めたことからきっと伝わるはずだ。
自業自得だけど、今は落ち着くまでじぶんの心情を優先したい。
店長と繋がる人たちとの接触は全部避けたかった。
バイトを辞めたことを親に話したら、今まで頑張ってくれたから、残りの大学生活はじぶんのために楽しんでと言ってくれた。
だから、新しいバイトを探すのはやめた。
本当は空いた時間をバイトに当てて考える時間を作りたくなかったけど、人と関わることに疲れちゃった。
大学には必ず行って、残りの時間は自宅にこもって課題をこなしたり本を読んだり、外との接触を減らしていった。
泣きつかれて眠りにつくと、また夢を見た。
ーーーー悠真の夢。
店長のことを思って泣くのに、夢に出てくるのは悠真なんだね。
わたしの好きは偽物だったの?
店長を好きだったこの気持ちは偽りだったの?
悠真のところに戻りたいと泣いたわたしが本物なの?
座り込んで泣き出すわたしを、悠真が強く抱き締めた。
この腕を覚えてる、だけど、これじゃない、この人じゃない、わたしが求めるのは悠真じゃない。
浮かんでくる涙が大粒になってこぼれ落ちる。
『本物だよ。全部、本物だったよ』
耳元に優しく流れる悠真の声。
泣く私を慰める声は昔と変わらない。
『過去の俺にすがるぐらい、ひなたは本気で店長を好きで辛かったんだ。本気で好きだったから、辛かったんだ』
『……っでも、店長は信じてなかった、わたしの好きを1度も、』
『それはあの人の弱さだよ。本当はわかってたと思うけど、ひなたを俺から奪った罪悪感もあるんじゃない?』
『奪われてないもん、わたしが店長を選んだんだもん、』
『それもわかってる、分かってるけど分かってない。全部見えてるはずなのに見えてない。そういうことだよ』
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