第58話

どこから間違えたのか、


どれを選べば正解だったのか、


今のわたしには

正しい選択が出来ないけど、




幸せだったんです、


本当に。




店長を好きになって、


店長といっしょの時間を過ごして、


体を重ねて、


店長に全身で愛されて、


あ、今すごく幸せだって

涙が出たんです。



大好きでした。


とても幸せでした。


本当は2月までは

バイトを続けようと思ってました。


だけど、



店長の顔を見るのが辛いんです。


顔を見たら離れたくない、


別れたくない、


彼女じゃないのに

そんなこと思うんです。


本当にすみません、


最後に会うことも、


電話もせずに、


一方的にこんなこと書いてさよならで、

すみません。








いいよ。


バイトのことも了承した。


あいつらにはうまいこと話しておくよ。


色々迷惑かけること多かったのに、

今日まで続けてくれてありがとう。


俺も、すごい幸せだった。


ほんとにありがとう。


さよなら。













さよなら、店長。
























もう連絡をとることはないだろう。


店長のラインは削除した、連絡先も、履歴も、全部全部消した。


クリスマスに二人で行った水族館で買った、ペアのぬいぐるみの片方も、もらったメモも、隠し撮りした写メも、全部全部、残さず捨てた。







『店長、きれいだね』



手を繋いで、水槽の中を泳ぐ色鮮やかな魚を眺める。


『ひなた、こんなときまで店長呼びすんの?』


『なんか、…癖で、だって恥ずかしいし』


『せっかくクリスマスに二人でこれたのにムードねえじゃん』


『……きれいだね、コウ、さん』


『そうだな、すごいきれいだな』



笑いかける笑顔がとっても優しくて、今までの中でいちばん温かい笑顔で、嬉しくなって泣きそうになった。


ずっと手を繋いで水族館を歩いたね。


わたしが行きたい、憧れてるデートのひとつだって言ったことを覚えててここに連れてきてくれた。


二人ともバイト終わりで夕方からのデートだったけど、イルミネーションも見れて、充分なデートだった。


きっとこれが、最後のデートだから。


目一杯楽しみたい。


店長を感じたい。


1秒でも多く店長の瞳にわたしを映したい。


好き、大好きだよ店長。













「ぅっ…あ…あぁあ…」


抱き締めたスマホから、店長と過ごした思い出がどんどんこぼれ落ちて消えていく。


夜景のきれいな場所で何度もキスをした。


バイトでテンパったときにすぐに助けにきてくれた。


タバコを吸った後のキスが苦いと嫌がるわたしのために、吸うのを我慢してくれた。


あのヘビースモーカーな店長が、タバコを吸わずに待っててくれた。

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