第57話
俺は充分なくらい、一生分の幸せをひなたからもらった。
もう、解放してやろう。
ひなたが本来いる場所へ返してやろう。
まだ新着を知らせることのないスマホを見つめて、俺も、さよならの準備を始めた。
ひなたの好きが全て偽物だったわけじゃない。
好きでもない男と寝れるような女じゃない。
ひなたからいくつも伝わる愛に、俺は何度も救われてたんだ。
初めて俺を理解してくれる女性だった。
わかってくれる、受け入れてくれる、許してくれる、ひなたは俺の全てを見てくれる女性だった。
ずっと孤独を隠して閉じ込めて、他人を拒絶して生きてきたのに、初めてひなたが俺の心に触れたとき、今まで苦しかったものがすーっと消えていったんだ。
ひなたは気づいていない。
それがひなたにとっては普通のことで、ごく当たり前のことで、特別ではないから。
だけど、俺はひなたが欲しかった。
ひなたの一番近くにいきたかった。
こんなこと今までなかったから、自分を理解してくれるこの人を手に入れたいと強く思ったんだ。
ひなたが俺にしてくれることが、こんなに幸せなことなわだって知らなかった。
誰もしてくれなかった、誰もできなかった。
誰のことも信用せず、傷つかないように自分を守っていた俺にひなただけが手を伸ばしてくれた。
甘えていた、最後までひなたに。
俺の好きも偽物かもしれない。
本当にひなたを女性として愛しているのは、きっと悠真だ。
俺もひなたも、他のものを愛だと、恋だと勘違いしてるんだ。
どこかで冷静に判断する俺に、今すぐ否定したくなる感情が沸き上がるけど、どれも本当で全部真実なんだ。
もうじきひなたからメッセージが届くだろう。
電話だろうか?、ラインだろうか?、最後に会うことはできるのか?
もし最後なら、もう一度だけひなたを抱き締めたい。
もっと一緒の時間を大切にすればよかった。
大事にすればよかった。
最後はひなたを苦しめずに終わらせてあげよう。
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